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『けったいな町医者』『痛くない死に方』

 さて、長女と『AGANAI(あがない)~地下鉄サリン事件と私~』を見に行った時、連れ合いは、別の映画を見に行った。ぼくが勧めた『けったいな町医者』と、『痛くない死に方』だ。

 共に尼崎に実在する長尾和宏医者が関わっている映画で、『けったいな町医者』は、長尾医師を追いかけたドキュメンタリー。『痛くない死に方』は、彼の原作を基にした在宅医療を題材にし、柄本佑が主演したドラマ(長尾医師役は、奥田英二が演じている)。ぼくは、3月に京都シネマで見て連れ合いに勧めていたが、5月にみなみ会館でも上映されることになって、2週続けて見に行った。

 ぼくは、ドキャメンタリーの『けったいな町医者』の方が面白かったが、連れ合いは、『痛くない死に方』に涙したようだ。2本をみた方が在宅医療の現実への理解が深まるだろう。

 結局、医者が向き合うのは、病気ではなくて目の前の患者さん、いやその人であり、誰もが死ぬことを免れえない以上、死とも向き合わねばならない。しかし、病気を完治させるのが医者の役目であるというのが第一義なので、当然、町医者よりも、大病院や大学病院の、さらには高度な最先端医療おこなう医師のランクが上で、治療よりも看取りを行う在宅医者や町医者は、ランクが下だという偏見を、一般人はもとりより、医者自身がもっているというのである。上位にランクされているものほど、その優越感が強いのであろう。医療云々の前に、人としての生き方と同時に、死に方をどう向き合うかのは、それぞれの人間観にも深く根ざしている。

 その意味では、長尾医師のやっていることは、今の医療現場からみれば、非常識なことばかりである。住み慣れた時に散らかった部屋に、家族が普通に生活していく中で、点滴などの管につながれて溺死するのでなはく、脱水を恐れずに枯れるように死んでいく姿には、人間らしさ、その人らしさが表れて、自然で、温かい景色に見える。また救急車を呼ぶのでも、それがどういうことかを問われる(病院で死ぬことを意味する)、薬=医療ではない、などなど目からウロコのシーンが多かった。結局、医者に、覚悟と信念と、経験が裏打ちされているのである。それでも現代医療を否定するのではなく、その恩恵をうまく受けるために力をになろうというのだが、一方で、製薬会社から大学病院の教授に流れる研究費を指して、「医学部教授は、薬屋の手先、広告塔で、魂を売っていないといえる人がいるのか」と辛辣な批判も口にされる。
 この人、絶対に業界から嫌われ、きっと変人として無視されているだろうと思うと、俄然、親近感が湧いてきた。

 

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