『春江水暖』
『春江水暖』 (しゅんこうすいだん)は、余韻を残す映画だった。今年、6本目の中国映画(台湾も含む)だ。昨年も、新世代監督の意欲的な作品を観たが、これも若い監督で、1988年生まれなので、撮影当時はまだ20代だったということか。
中国映画が好きだ。香港や台湾もそうだが、やはり大陸のものがいい。中学生の時にテレビ『水滸伝』にはまってしまった。それ以降、歴史や地理が好きだったが、中でも中国史には興味を持ち続けている。
別に歴史物でなく近現代の中国映画が好きだ。現代に至るまで苦難の歴史が続いているが、この数十年だけでも、これほどめまぐるしく社会情勢が変動し続けている国はない。同時に、権力による弾圧によって表現が不自由な国でもある。そんな大きな流れの中で、小さな個人が翻弄され続けている。それだけ映画となる素材も多く、悠久の時が流れる大河的な時間とあいまっているのだ。
その意味でこの映画は、期待に違わない、いい映画だった。
年老いた母と4人の息子たち。そしてその家族の物語。それぞれがさまざまな事情を抱え、苦闘している姿がごく自然に描かれている。ほとんどがプロの役者ではなく、監督の親戚や縁者であって、役どころそのままに、実生活でも料理人や漁師である。障がいのある子役も、ほんとうの父子での出演だという。でも素人という感じはまったくせずに、見事に風景にはまっている。
中国の江南地域、杭州、富陽の、大河、富陽江が舞台である。この自然が単なる背景ではなく、主役だといってもいい。そしてカメラワーク。ロングショットや長回しの映像で、山水画のようにみずみずしい自然が描かれる一方、急速に進化する大都会の風景も描かれる。そんな急激に変化する社会に呑み込まれている市井の人々と、そして変わらない日常もある。四季おりおりの自然の美しと、大河から搖らめく水蒸気、アジア独特の蒸し暑さが感じられたりもした。
一大絵巻の最後は「巻一完」とクレジットされた。「巻一」は完了は、次ぎの「巻二」に続くことを示していたのである。楽しみである。
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