『無頼』『ヤクザと家族』そして『すばらしき世界』
今年に入って、毎月1本「反社」ものの映画を観ている。ヤクザもの、反社会ものは面白い。
1月に、井筒和幸監督の『無頼』 。
2月には、藤井道人監督の『ヤクザと家族』 。
そして今月は、西川美和監督の『すばらしき世界』 である。
昔は、「ヤクザ映画」「任侠もの」といわれた。無法であっても、任侠や漢(おこと)たちが命をかけ、その散りぎわを美学がテーマになったりもした。それが今では、反社会の時代錯誤の半端もの。それどころか「ヤクザ者に人権はあるのか」がテーマになるほどの絶滅危惧種。その意味での哀れさ、哀愁がテーマとなっているのも共通だ。
余韻が残ったのは、『すばらしき世界』が一番よかった。主人公の実在のヤクザものを、役所広司が演じる。人生の半分を刑務所で過ごした男に社会の眼は冷たい。しかし、母親の面影(幻想)を純粋に追い求め、弱いものいじめを許さず、後先なしに暴力や脅し以外の解決法を知らず、ありまにも純粋、飄々とした時代錯誤の男に、知らぬ間に手を差し伸ばさそうとする人達がいるのである。世間の物差しでの「正義」や「善悪」は、何を基準にしているのか。ほんとうに彼は悪人なのか。そんなことを考えさせられるものだった。監督の西川美和は(デビュー作の『蛇イチゴ』のみDVDで観たが)、2作目の『ゆれる』が強く心に突き刺って、皆さんにお勧めをしたが、とにかくお気に入りの監督である。これも「ヤクザ、ヤクザ」した映画ではなくよかった。
一方は、井筒和幸監督の『無頼』は、第2次世界世界大戦後、親に見捨てられ、貧困と差別の中で、誰にも頼らずに闇の世界でのし上がり、ついに親分となって頭角を現わす過程を、昭和という時代と共に描いている。そして暴対法によって力を削がれて足を洗って仏門に入っていく大河ドラマである。
その意味では、『ヤクザと家族』に登場する舘ひろし演じる親分は、義理、人情に篤く、曲がったものを嫌い、覚醒剤などにはけっして手を出さない。無頼と同じ親分がモデルじゃないかのというような、古きよき?親分を演じている。その男にほれて、親子の契りを結び、全盛期から衰退、そして哀れな末路をたどる漢(おとこ)を、綾野剛が演じていた。一番、哀れ度が高かった。
それぞれが面白かったが、真面目な善人の人生よりも、道を外した無頼の生きかた方が俄然、面白く、小説や映画の主題になっているはどうしてか。どこかで、そうなれない分、嫌いながらも、妙な憧れがあるのかしれない。
ところで実際に暴対法以降のヤクザの人権をドキュメンタリー映画は以下に紹介していますので、読んでください。
『ヤクザと憲法』: かりもんの実践的!真宗法座論 (cocolog-nifty.com)
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