『御伝鈔』(6)第五段~「選択付属」
『御伝鈔』は上巻の「選択付属」(せんじゃくふぞく)と題される第五段。法然門下に入られて4年、親鸞聖人三十三歳の時に、法然聖人の選択本願の法りを正しく領解していると、『選択集』の書写と(法然聖人の真影の図画が許され)、また改名の名を記してくださるという一段だが、覚如上人は『化身土巻』後条を引用して確かめられているので、この段の大半が親鸞聖人の『化身土巻』の文章で、もともとは漢文だったところだ。
その『化身土巻』の引用部分を要約すると、
建仁元年(聖人二十九歳・法然聖人六十九歳)「雑行を棄てて本願に帰す」身となった。
元久二年(聖人三十三歳・法然聖人七十三歳)『選択集』の書写を許された。
同年四月十四日、内題と標宗の文、そして「釈綽空」の名を書いてくださった。
同日、法然聖人の真影の図画が許されった。
同年七月二十九日、図画完成。法然聖人がその真影の銘として「南無阿弥陀仏」と「本願加減の文」を書き添えられ、
また夢のお告げで改めた名を記してくださった。
『選択集』は九条兼実公の要請で撰述された浄土真宗の真髄の書物である。
その書写や真影の図画を許されるのは極めて稀で、専念正業の徳であり、決定往生の徴だと、たいへんな喜びである。
ということになる。
この前に法難の流罪に厳しいお言葉があるのだが、ご自分のことを自らは語られていない親鸞様も、法然様との関係性のところだけは詳しく記述されている。その背景にあるのは、正しい仏法、念仏の教え、そしてそれを説かれた法然様が、不当にも弾圧されたことへの悲しみ、怒り。さらに、明恵上人からの『選択集』への批判に対する反駁が、本書(教行証文類)の撰集の一つの目的にあることは、この文脈からも推察されるように思われる。すなわち、法然聖人との出遇いは、阿弥陀如来との出遇いなのであって、その法然様から『選択集』を授かった喜びと同時に、それが不当に弾圧されるということに対して、どんなことがあっても真実の声を上げずにおれなかった親鸞様の魂の叫びの本源がここにあるといえるのではないだろうか。
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