『御伝鈔』(5)第四段~「蓮位夢想」(2)~夢告の持つ意味
その夢告の文は、
「敬礼大慈阿弥陀仏 「大慈の阿弥陀仏を敬礼したてまつる。
為妙教流通来生者 妙教を流通せんがために来生するは、
五濁悪時悪世界中 五濁悪時・悪世界の中において、
決定即得無上覚也」 決定してすなわち無上覚を得しめんとなり」
意訳すると、「謹んで、大慈悲の阿弥陀様を敬い拝みたてまつります。阿弥陀様が親鸞様の姿をとって、尊い念仏の教えを伝えるためにこの世にお出ましになったのは、この五濁の汚れ濁りに満ち満ちた悪世界の人々を、お念仏のみ教えによって必ず必ず最高のさとりを得させようというためであります」ということになる。
その夢告の文は、親鸞聖人の『尊号真像銘文』(「皇太子聖徳御銘文」659~661頁)に原型があるといってもいい。
「敬礼救世 大慈観音菩薩「救世大慈観音菩薩を敬礼したてまつる
妙教流通 東方日本国 妙教を東方日本国に流通し、
四十九歳 伝灯演説」 四十九歳、灯を伝えて演説したまふ」
これは、百済(古代の朝鮮半島の国)から聖明王の勅使として、金銅の救世観世音菩薩像をもって来朝した阿佐太子が、聖徳太子との謁見した時に礼拝し述べられた言葉で、親鸞聖人は『上宮太子御記』を引用されて、聖徳太子の本地は観音菩薩であって、妙教を東方の日本に伝道するために、聖徳太子と現われて、四十九歳(ご往生)まで、法灯をお伝えになり続けたのだと頂かれている。
聖人の代理としてお手紙を書かれたり、『教行信証』を与えられるほどの蓮位房ならば、既にこの御文は知っておられただろう。今日の考えでは、それが夢として潜在意識に現れたのだろうが、当時の方にとって霊夢は現実よりも宗教的に大きな意味があり、聖徳太子から直接授かった言葉は深く重い意味あいがあったと思われる。
『御伝鈔』の十五段のうち、上巻「3六角夢想」「4蓮位夢想」「8入西観察(定禅夢想)」、下巻「4箱根霊告」「5熊野霊告」と、夢告が大切な意味を持つ段が、5つもある。他の例をあげれば、法然聖人も善導大師との夢中で出会い、親鸞聖人も夢告についての記載がある。恵信尼公のお手紙(六角夢想・811頁、下妻夢想・812頁、寛喜の懺悔・815頁)には、聖人の生涯の転機となる場面で夢が現われている。当時の人々にとっては、現実世界での出来事以上に、深い宗教的な意味を持っていたことが窺えるが、お祖師方も例外ではなかった。
ちなみに、『御伝鈔』に先行した『口伝鈔』第十三章(895頁)には、同一エピソードが掲載されるが、『口伝鈔』では前章(十二章)には、恵信尼公の下妻夢想の章が置かれる。恵信尼公が、「法然聖人は大勢至菩薩の化身」であるのに対して「親鸞聖人は観世音菩薩の化身」という夢を見れたことが示される。それに続け本章では、聖人は観世音菩薩の化身であると同時に、「本師阿弥陀仏の化身である」ことが強調されている。その両者を統合するために「弥陀観音一体異名」説があげれらていく。
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