恐るべし『鬼滅の刃』、でも『スパイの妻』を観る
久しぶりに大手のシネコンで映画。大型ショッピングモールのエレベーターがあいて、映画館のフロアーに入った瞬間、目を疑った。正月やGM中のような大勢の人(若い人が多い)の熱気で溢れていたのだ。特別な日ではない、平日の金曜日の午後である。でも、その原因がすぐわかった。「鬼滅の刃」の新作の公開初日だったのだ。この映画館でも、15分おきに上映されて1日で35回以上のフル回転である。それが全国の大手シネコンのすべて行われているのだ。まだ座席は半分のみとはいえ、興行収入の新記録になるのかもしれない。
3月や6月には、このシネコンで観客がたった一人で観た映画があった。今は、京都シネマなどでは100%の座席での上映が始まり、かなり人出は戻ってはきている。でもこの賑わいは、コロナ禍の中では初めてではないか。恐るべしである。
でも、ぼくが観たのは『鬼滅の刃』ではない。今日が初日の『スパイの妻』 。黒沢清監督がヴェネチア映画祭で監督賞を受賞した話題作ということで、満席に近かった。といっても50%なので両隣は開いているのでゆったり観ることができる。
太平洋戦争突入前の神戸で、裕福な貿易商を営む夫婦主人公。当時としては、てはかなり進歩的な国際人で、暗い時代に逆行しながらも優雅に生きているが、偶然(ほんとうに偶然なのか不明だが)、仕事先の満州で捕虜の人体実験という恐ろしい国家機密を知り、その証拠も手に入れてしまう。祖国を裏切ることになっても、人道的な正義を貫くために、国家に反逆する行動を起こそうとするのである。
「お見事!」という評も多かったが、ぼくとして悪い映画とは思わなかったが、物足りなさを感じた。決して、面白くなかったとか、嫌いとかではないの。ただ映画のティストの好き嫌いの問題で、この手の演出や手法がいいと思う方にはいいのだろう。憲兵隊に厳重マークされながら二人だけでやすやすと事が進んでいたり、かなり緊迫感のある状況なのに、ハラハラ感やドキドキ感を感じさせずに淡々と進んでいく。夫婦共々、大義(正義)をなす為に、愛する人や大切な人を簡単に差し出していくことに、葛藤や戸惑いをまったく感じさせず(それを超えたところで訴えるものを観るのだろうが)、どうも感情移入しずらく、淡々と見ている感じがしたからだ。
全編、映像(フィルム)がキーワードになっていて、重要な場面では光と闇が交錯している。731部隊を彷彿させる映像や拷問場面もあるところが、胸を締めつけられた。
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