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『二人のローマ教皇』

 まず、タイトル『二人のローマ教皇』 に惹かれた。なぜ、二人なのか? ローマ教皇はひとりだけの存在であるからだ。

 今年11月、日本に初来日(教皇として)したローマ教皇フランシスコ。東京ドームでは、大規模なミサを行った。注目は、フクシマを抱えての原発への発言だったが、日本内では政権に配慮してか特に無く、離陸した飛行機の中で原発に反対する踏み込んだ発言があったという記事を読んだ。聖職でありながら、世俗との交わり世界の情勢についての発言力は、とてつもなく強大である。

 本作は、そのロックスター法王とも称される、ローマ教皇フランシスコ誕生秘話をとらえたフィクション作品だ。しかしある部分ではノン・フィクションでもあるのだが、前教皇との会話やディテールのほんとうのところは、フィクションであろう。

 物語は、前教皇選びのコンクラーベから始まる。聖職者のトップが集まる政治的な駆け引きの場だ。ほんとうは内部は非公開なのだが、これを取り上げた映画も最近はけっこうある。映画は、2005年、ドイツ出身の新教皇ベネディクト16世として選出されることろから始まる。その時、彼と争ったのがアルゼンチンの改革派、ベルゴリオ枢機卿(現教皇のフランシスコ)が、次点となる。当時のローマ教会の体制は、保守派の安定路線を選んだのである。世の流れに反し何も変わらない教会に対し、ベルゴリオは枢機卿職の辞任を申し出る。しかし認められず、教皇ベネディクト16世に招かれて、二人の対話が始まる。その合間も、バチカンは、数々のスキャンダル(聖職者の少年への性的暴行の処分に関するものだと、かなり意味深で提示された)に見舞われ、また保守派と革新派の対立もあって迷走していたのだ。

 それにしても、名優ふたりの静かな対話劇、前教皇のアンソニー・ホプキンス、新教皇のジョナサン・プライスの演技が素晴らしかった。しかも、単なる会話ではなく、神からの啓示をめぐる霊性的な会話の部分もあれば、人間臭い教皇の姿もみせていくのである。教皇は天皇と同じく終身制で、一度任命されると死ぬまで辞められない。しかし、何事も例外がある。保守派と革新派の対立関係にあった二人が、互いに理解を深めていく中で、ベネディクト16世は生前辞任という重大な決断を下していく。そして、2013年、改革派で、イエズス会、そして南米出身の初の教皇が誕生するのである。なるほど、それで二人のローマ教皇というタイトルだったのか。

 しかしながら、彼のこれまでの道のりは平坦ではなく、現在も大きな重荷を背負い、悩み、苦しんでいる姿が丹念に描かれている。これは、3年前に公開された『ローマ教皇になる日まで』と合せて観れば一層面白い。決して、教会の中に隠れるのではなく、現実の社会で、暴力で支配する恐怖政権との対峙する姿勢を貫くのか、妥協して生き残るのかという深い葛藤もみせていく。

 なお、劇場公開は限定的なのもで、Netflixで配信中。

 

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