『グリーン・ブック』
今年のアカデミー賞の受賞作やノミネート作の主要な作品は、ほぼほぼ観た。作品賞は『グリーン・ブック』だった。
まだ黒人差別が顕著な1960年代の南部に旅する、天才音楽家の黒人男性とその用心棒兼ドライバーの白人男性のバディー(相棒)ロードムーピー(旅物)。さすがに、映像も、音楽も、ストーリーも、飽きることなく面白く、最後は幸せな気分になれるおすすめ映画。
何よりも二人の演技がよかった。水と油の二人のバディーで、差別を受ける黒人の男性が、知的、スマートで、冷静沈着で、堂々としているが、常に黒人としての差別を受けつづける男の覚悟を、マハーシャラ・アリが、孤高の威厳さ、天才の孤独を巧みに演じている。
一方 イタリア移民で「イタ公」と罵られる、労働者階級のヤサグレな男。無教養で、ガサツで、ケンカ早く、口は達者なので、常に腕力と、口先で問題を解決していく。これをヴィゴ・モーテンセンが、かなり増量(役者さんも大変)して、腹の出た大食漢役を演じている。
食べるものも、音楽も、趣味も、生活スタイルもまったく違うからこそ起こるトラブルが笑いのネタになる。本当なら会わないはずの異質との出会いがある。特に差別意識のあるものとの出会いは、他者を理解することから始まるが、相手が稀なる才能ある天才だったことも、理解の発端にはあったし、自己の無いものを互いが相手に見つけ、嫌いつつも引きつけってくだけの、人間的な魅力があったというだろう。結局は、他者ではなく、新たな自分自身に出会うことだろ。それは世界の拡がりであり、より豊かになるということだ。そのことを教えられた。
ただ黒人差別を扱っている割には、あまりにも安定調和の世界での優等生の作品だ。万人向けの感動作だが、ぼくには猥雑さというか、もう少し毒気が欲しいところ。
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