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『ローマ』

 ベルリンでは金獅子賞、アカデミー賞では最多ノミネート、しかも配給がネット配信中心という映画『ローマ』を観る。

 日曜日のレイトーショーで終了が0時をすぎるので、観客は誰もいなかった。すぐに中年のカップルがぼくの前の座席に座ったが、観客は合計3名。一度、大劇場で、ひとりで映画を鑑賞してみたいと思っているが、他にも1名や2名ということがあって、いまだに1人だけということない。

 モノクロなのに、色彩が溢れてくる作品だった。カメラワークも秀逸で、映像も美しかった。冒頭も斬新な映像で、最初と最後、中盤にも、飛行機が頭上を飛んで行く姿が映し出されるのが、何かの暗示なのか印象的だった。

 基本はネット配信用の映画で、劇場は限定的という代物だが、これこそ映画館の大画面で観る価値のある映画だと思った。
 
 タイトルから、イタリアのローマを想像していたが、そうではなく、アルフォンソ・キュアロン監督が少年期に居たメキシコの地区の名前で、監督自身の自伝的映像だという。1970から71年にかけての時代の匂いが伝わってくる。地震、学生運動、弾圧する民兵組織、テレビ番組やヒット映画など、もしぼくが、メキシコの歴史や時代背景にもっと詳しければ、さらに楽しめただろう。そんな時代を背景に、主人公は、メキシコの中流(中の上か)白人家庭に住む込みで働く家政婦(ネイティブ系)の若い女性を中心に、その雇主一家の物語で、誰の上にもおこる人生の一コマが、丹念に拾われていく。

 作品賞の最有力だったそうだが、しかし、非英語圏、しかもネット配信を主にしたもの、そして少し退屈なアート系の作品だったことなどが影響したのか、作品賞は逃した。それでも監督賞の受賞(他に撮影賞と外国語映画賞も受賞)となったところをみると、この機微は面白い。確かに、全体的には退屈ではあるが、ぼくには、印象的な映像も多く、また感情を動かれる場面が、終盤に何カ所がやってきた。全般に静かな映画だったが、余韻が残る作品だ。

 

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