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『ハクソーリッジ』

 『ハクソーリッジ』は、二重、三重の意味で知らないことばかりだった。

 まず、映画タイトルを聞いても意味不明。こんな時は邦題になるのだろうが、わざわざ原題のままだ。ハクソー(hacksaw)とはノコリギのこと、リッジ(ridge)は崖。第二次世界大戦の沖縄での激戦地で、断崖絶壁がノコギリの歯のように険しく、多くの死者を出したことから、アメリカ軍がこう呼んだというのだ。1945年4月1日、沖縄本島に上陸したアメリカ軍は、首里(那覇市)を目指して進軍。首里の北方3キロの防衛戦の一つが、150mの断崖で日本名「前田高地」と言われるのこの場所だった。日本軍はこの地に縦横の地下壕をめぐらし、米軍を迎え撃った。狙撃だけでなく、手榴弾、銃剣、さらに刃物での特攻精神での肉弾線で対抗。20日間の激闘が繰り広げられ双方に多大な被害がでる。が、どんなに善戦しても、補給路を断たれて孤立していては、圧倒的なアメリカ軍の武力の前に敗退しかない。ほどなく首里も陥落し、6月23日(沖縄での「慰霊の日」)に、沖縄での組織的防衛を終えることになるのだ。

 沖縄の地上戦が激戦地のひとつが前田高地で、このような白兵戦が繰り広げられていたことは、まったく知らなかった。それにしても戦闘シーンの描写は目を背向けたくなるほど迫力だった。火炎放射器で焼き殺される日本兵、特攻精神での切り込んでの肉弾線。至近距離の銃撃、血が飛び交い、腕や足や頭切れた死体が転がる生々しい戦闘シーンが繰り返されていく。

そんな激戦の中で、ひとりの「臆病者」と虐げられて、武器を持つことを拒絶した男が、多くの命を救うことになる史実に基づく映画だ。主人公は、元第一次大戦時に軍人だった父親との複雑な関係もあり、宗教的理由から「良心的徴兵拒否」を認められる。しかし、兵器を持ち殺害することには反対だが、愛国心はあり、なんとか国に貢献したいと、銃後ではなく、志願して従軍する。その意味では「良心的徴兵拒否」ではないのだが、訓練においてでも、銃さえ握らない男は、軍隊では邪魔者、お荷物以外ではない。さまざまな嫌がらせで自主的な除隊を促されるも、それも拒否。そして、最前線、もっもと激戦区のひとつに、衛生兵として送られるのである。そこで武器ひとつもたいない男が、75名もの人々の命を救い、最後は、大統領自らが名誉勲章を授与するという活躍をするのである。

 戦場描写も生々しかったが、その家庭的背景、家族(特に父親と母親)との関係や、連れ合いとの出会いなどの人間ドラマ秀逸だった。そしてなによりも彼の行動が人間を超えた神の啓示によるものであるという表現は、イエスキリストを描いた『パッション』を撮ったメル・ギブソンらしいと感じた。

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