『ラサへの歩き方』~祈りの2400㎞
『ラサへの歩き方』~祈りの2400㎞は、昨年秋に観た映画。何度かご法話でも話して、いまさらだがちょっとご紹介。
チベットの小さな村から、親戚や仲間たちが、はるか遠く聖地ラサ(1200㎞)、さらにカイラス山へ山岳道(1200㎞)の祈りの旅に出るのである。2400㎞もの道中、「五体投地」で、1年をかけて巡礼する。その様子が、大自然の中での巡礼風景と、チベットの人々の暮らし向きや日常が、丁寧に描かれていた佳作だった。
巡礼者は、老若男女を問わない。子供だけでなく妊婦や高齢者までいる。日常がそうであるように、一見、非日常の巡礼の旅の途中にも、出産もあれば、死もあるのだ。特に、鳥葬のシーンもある。生前、生き物のいのちを奪い生かされてきたことに対して、最後にその身を布施するというのである。
「五体投地」のルールは、
(1)合掌する
(2)両手・両膝・額を大地に投げ出してうつ伏せる
(3)立ち上がり、その動作を繰り返して進む
(4)ズルをしない
(5)他者のために祈ること
これまで、インド仏跡でも、五体投地での巡礼者に出会っているが、恥ずかしいことにまったく(5)の視点が、ぼくにはなかった。そして(4)の徹底ぶりにも、頭が下る。
ところで、インドで興った仏教は7世紀頃にヒンドゥー教の影響を受けた密教が興り、中国や日本にも弘まるものの肝心のインドでは、結局、ヒンドゥー教に呑み込まれてしまい、仏教は滅んでしまう。しかし、チベットでは、その密教と民族信仰(ポン教)とが結びつき独自のチベット仏教が花開くことになる。なかなか日本では、チベット仏教のことは知られておらず、神秘的で、呪術的で、そのおどろおどろしさが魅力だという、そんなイメージがあるだろうか。
しかし、チベット仏教は大乗仏教でもあるのだ。 大乗仏教の大きな特色のひとつが、菩薩道、利他行の実践である。
だからこの祈りの旅もけっして自己の欲求満たすために祈りではない。これだけの難行苦行も、すべて他者の幸せを祈るというのである。
目の前に虫が歩いてると歩みを止めて殺生をしないようにつとめる。 夜には、ゲルに一同が会して夜の勤行し、語り合う。静かな、豊かな時間が流れているのには、こちらちの胸も熱くなった。
ではなぜ、衆生の私が行もせず、善も積まず、布施もせず、祈りもしない浄土真宗が「大乗仏教の至極」なのか。……しみじみ味合わせられます。
| 固定リンク
「映画(アジア・日本)」カテゴリの記事
- 映画「千夜、一夜」を新潟で見る(2022.10.24)
- 映画『名付けようのない踊り』(2022.02.09)
- 濱口竜介監督『ハッピー・アワー』(2022.01.06)
- 今年211本目は『CHAINチェイン』(2021.12.30)
- 終い弘法(2021.12.22)