『日本で一番悪い奴ら』
未解決の誘拐事件と人事権を巡る警察内部の問題を、広報官の目線でその葛藤を重厚に描いた『64(ロクヨン)』は、小説の中の話だった。
http://karimon.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-0fa5.html
一方、『日本で一番悪い奴ら』は、実際に起った日本の警察史上最大の不祥事を題材にした実録ドラマだ。ところが、ノンフィクションの『64』の重厚さに比べると、フィクションをもとにした本作は、タッチが軽い。旬の人気俳優が揃った登場人物もみな軽快で、事が重大であればあるほど、実はコメディに見えてくるのが妙なものだ。
北海道道警で起きた稲葉事件がもとになっている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E8%91%89%E4%BA%8B%E4%BB%B6
当時は、現場では警察と裏社会が持ちつ持たれつの関係であったことが分かる。麻薬取引、拳銃の摘発、暴力団の抗争、すべてS(スパイ)と呼ばれる警察協力者がいなければ、大型の摘発などできないのだ。Sもまた警察の情報を得て、組織や裏社会で力をもっていくのである。目的のための逸脱行為がエスカレートしながらも、上司もその成果を第一に、不正を黙認し、警察のエースとして出世(成り上がる)していくプロセスが痛快だ。当然、裏社会とはますます緊密になり、酒に、女に、金に溺れ、感覚が麻痺していく姿が面白くも、哀れである。
上層部らかより大きな成果を求められて、おとり捜査や泳がせ捜査が常態化。とうとう税関と組んで海外からの麻薬・覚醒剤の密輸を幇助する見返りに、最大規模の拳銃密輸を摘発する裏取引を実行するが、事態は最悪の結末を迎えていく。
とうとう逮捕されて、実刑を受ける。事情聴取されていた元直属の上司は自殺、共犯者(S)もまた拘置所内で獄中自殺。実刑判決をうけた服役後、事件の全貌を告発するも、警察ぐるみでの組織犯罪とは認定されないまま、一個人、一部の暴走として処理されていくのである。
しかし、悪いことをやった人間の背景には、巨悪の闇がある。厳しいノルマの点数主義、成果主義、そして実力主義の中で、正義は、巨大組織を守る論理そのものになり、その目的のために、手段(たとえ悪であっても)が正当化されていくのであろう。実録かどうか以上に、エンターテメントの映画としても面白かった。まさに「事実は小説より奇なり」である。
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