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『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』

  ドキュメンタリーをエンターテイメントに仕立てたマイケル・ムーア。深刻な問題で笑いを取る。そのサービス精神は、さすがアメリカ人である。銃規制やテロ、医療問題など取りあげるテーマは至って真面目。その手法がアポなしの突撃取材で、反対派にも油断させて切り込み、笑いに替える。その奥には毒のようなものがあって、観る側もドキドキさせられた。しかし、最近は、権力を茶化したり皮肉くる程度に毒が中和されて、ますますエンターテイメント性が強くなっている。

 今回の『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』では、突撃色は皆無。歓迎ムードたっぷりに大統領まで面談に応じて、終始、和やかな雰囲気である。その意味では、毒も、牙もなくなっている。

 が、しかしである。なぜか、胸が熱くなるシーンがたくさんあって感銘させられた。

 突撃先は、非英語圏のヨーロッパが、8ヶ所である。自由主義や資本主義、(日本は違うが)キリスト教などの共通基盤のある地域ばかりだ。1カ所だけ、イスラム圏のチャニジアが含まれる。アラブの春の過程で、女性の権利が確立され女性の社会進出が進む姿を捉えている。今やマイナスのイメージが大きいチェニジアだが、イスラム圏でありながら、女性の権利という意味では、日本より進んでいるようだ。小国ながら完全な男女平等政策を取って、金融危機の膿を出し切ったアイスランドも、もっと顕著だ。
 イタリアやドイツでは、労働環境や雇用時間、労働者の権利などがテーマ。フランスでは学校給食が取り上げて食育を、スロベニアでは大学無償化、宿題なし、統一テストもなく、授業時間も最短でありながら、世界での学力ナンバー1のフィンランドなどでは、教育問題が取り上げている。ポルトガルやノルウェーでは、犯罪と刑罰について。死刑廃止はもちろん、受刑者の人権問題にスポットが当てられる。

 受刑者への懲罰よりも社会復帰にウェイトが置かれているノルウェーでは、最悪のテロ事件(単独犯が77名もの若者などを射殺)の記憶も新しいが、そんな凶悪犯でも、死刑でも終身刑でもなく、最短なら10年、最高でも21年の懲役刑となった。息子を射殺された被害者の親へのインタビューが、秀逸。想像を絶する辛さを超えた光明に、涙が溢れてきた。

 残念なから、凶悪事件の抑止力、被害者感情の配慮などを理由に、日本では死刑廃止はほど遠い。それどころか、厳罰化の傾向が年々強くなっている。しかし、安心が増すどころか、比例するかのように生き辛さが増しているように思えてならない。真に豊かで、安心して生きられる社会とはが、問われている気がした。

  教育、女性問題、労働、刑罰など取り上げられた項目は、アメリカ以上に日本は後進国かもしれない。日本はアメリカ型の競走社会に毒されてきた。経済も、右肩あがりに拡大することが幸せだと信じられてきたのである。しかし、結局、私の人生はどこに向っているのか、いまの生き方(生活も、人生も)でほんとうによいのか、真に豊かな社会とはを改めて問われているかのようであった。

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