『天皇と軍隊』
日本で大声では語れないタブーがある。前回取り上げた暴力団もそうだがhttp://karimon.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-5d0b.html、最大のタブーは天皇に言及することだろう。もちろん皇室礼讃なら問題はない。しかし、たとえば、昭和天皇の戦争責任を公然と語った場合、長崎市長のように凶弾の犠牲になることもある。
2009年に作られた『天皇と軍隊』は、日本人監督の撮ったフランス制作のドキュメンタリー映画。2009年の作品が、昨年から日本で上映されだした。
日本本土の空襲の激化、沖縄戦、そして二度の原爆投下によって日本の敗戦は決まる。そしてアメリカによる占領政策、天皇制の存続と日本国憲法の制定の経緯、東京裁判、武力解除と戦争放棄から再軍備化への道。日米安保条約に、靖国神社、さらには三島事件と、現在の九条改正の動きなどが、貴重なアーカイブ映像と、当時を知る日米関係者へのインタビューで構成されている。タイトル以上に問題点は多岐に渡たり、戦後日本が抱える矛盾や課題を浮き彫りにしている。
憲法(九条)、靖国、日米安保、オキナワ、自衛隊、そして天皇制…。どれもが国論を二分するような大問題ばかりで、それらを90分で扱うのだからどうしても総花的にはなる。しかし、簡単に答えを出しえない大きな課題が、実はその根のところで繋がっていることを示唆しているのだ。
アメリカ(マッカーサー)の占領政策と、アジアでも緊迫化する共産主義との戦い。それが、日本側の天皇制維持との思惑で一致する。その文脈で、東京裁判も、憲法九条や、憲法二十条(政教分離)と靖国神社、さらにオキナワ政策を見ていくと、日本側が何を第一に護り、譲歩したのか。占領国のアメリカが何を利用し、妥協しあったのかが、よく分かるのである。
予告映像のラストは、昭和天皇の初めての公式記者会見のご返答の一声目で終わっている。
「戦争終結にあたって原爆投下の事実をどのようにお受け止めになられましたか」という質問である。
1975年時点では、こんな質問が出来ていた事に、まず驚いたし、また率直なお答えにも驚かされた。
本編では、この返答を結びとして、原爆ドームを前にした1947年の広島訪問の映像で、映画は終わる。
その答えを聞いて、なぜマッカーサーが天皇制を維持し、またそのために日本側がどのような態度で臨んだのかの本質が隠されていているように聞こえた。
衝撃的だった。
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