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『なぜ生きる』―蓮如上人と吉崎炎上―

 行きつけの映画館、京都シネマで、『なぜ生きる』を観ました。
  ひどい映画です。
 久々に、見るのに堪えない思いを持ちながらも、エンデングロールの協力者氏名まで、しっかり観ました。

 なにがひどいのか。
 時代考証がデタラメなのです。
 あり得ないことが連発されます。
 もちろん、アニメですから、何も史実どおりに描く必要ないでしょう。盛り上がる演出や伝承も入ってくる、当時のことがすべて分かっているわけでもない。それでも、細かなところで、こんないい加減な脚本、演出では、ほんとうに伝えたであろう大切なメッセージが伝わるわけがない。それらしく見せられないというところで、この映画はまったくダメです。それでいて、歴史的な年号や事件-1465年(51歳)の大谷派却とか、吉崎御坊の造営、多屋のことなどに触れ、1474年(60歳)の吉崎の火災など-を出して説明されている。フィクションならフィクションでいけばいいのにー。

 おかしなところは山のようにある。すべてを言うのも馬鹿げているけれど、気になった主なものをあげると、

 蓮如上人当時のご門徒が、『恩徳讃』(旧譜)を歌われる。これは大正時代に作曲されたものです。和讃の一節を口ずさむならしも、これを一同で歌うというだけで、もう興ざめです。
 
 しかも、本願寺の御本尊が「南無阿弥陀仏」の六字名号、扁額は『平成業成』。そして、大谷派却の時、蓮如様が護ったのが、このご本尊と『教行信証』というのも、ありえない。
 大谷破却で火災に遭い残ったと伝承される「帰命尽十方無碍光如来」が、大谷大学図書館に所蔵されています。第一、本願寺はもともと親鸞聖人の墓所を守るためのもので、その中心は親鸞聖人の木像=真影(しんねい)にあります。それで今日でも、東西ともに、阿弥陀堂より御影堂が中心なのです。それが本願寺です。蓮如上人が、いちはやく避難させたのは、ご真影です。それで、比叡山の山門派と対立していた三井寺・寺門派を頼って、この真影をまつるお堂を建てられます。吉崎建立章にもある「三井寺の南別所をふと忍ぶ出て」のところです。それがないと、堅田の源兵衛父子のなま首のエピソードも生まれてきません。

 そして肝心の『教行信証』。なぜか、親鸞聖人ご真筆(真跡)本まで『教行信証』と書かれているのです。この脚本家は、実物の国宝本をご覧になったことがないのでしょう。国宝本も、西本願寺本も、『顕浄土真実教行證文類』と題字されています。『教行信証・證巻』ではなく、『證文類』なのです。『教行信証』と言い習わしますが、親鸞聖人自ら『教行信証』とは、一言も仰っていないし、題字にはそうは書かれていない。
 
 また葬儀でも、まだ開版される前の『正信偈』を読誦する僧侶。これもおしかしい。『正信偈』が葬儀で使われるようになるのは、蓮如上人のご遺言で、蓮如上人以降からのことです。従来は『往生礼讃』が使われています。

 講演台の前にご法話される蓮如上人、難しい文字はパネルならぬ屏風を使って解説。蓮如様の居間には、『一向専念無量寿仏』の掛け軸。もうギャクとしかいいようがいない。おかしなところは数えたらきりがないです。
 
 しかし、歴史的な事実を無視するなら、難度海を渡る大船のご法話を評価される方もあるかもしれません。
 「どう生きるのか」ではなく「なぜ生きるのか」。誰も教えくれなかった。それで、みんな家族もお金も、自己の信念などにしがみつくが、生死の苦海の中では、何一つ頼りにならない。弥陀弘誓の船、大悲の願船に乗じる以外にはない。それには善知識に遇って、ただ聴聞する以外にはない。水よく石を穿つで、願船に乗るまで聴き続けるといった内容。

 でもぼくには、脚本の高森氏ご自身で何を言うのもご勝手ですが、蓮如様を利用して、「なぜ生きるのか」が親鸞さまがただひとつだと言わせた時点で、悲しくなってきました。「後生の一大事」とも一言も仰らず、「弥陀をたのむ一念」も一言も仰らない、蓮如上人のご説法がありえません。

 結局、既成教団から弾圧(今日の会への批判も)は、真実を声高らかに説くがためだ。それでも、命懸けで親鸞様の正しい御教を唯一伝える善知識があり、その善知識を中心に、真の親鸞学徒の命がけの活動によって、北陸の地に一大真宗王国、大伽藍を建設される…。

 もう完全に、自分を蓮如さまに投影して、いや蓮如さまを利用して作れたトンデモない映画。

 うーん、複雑な気持ちだったけど、ランチを挟んみ、2本目に観たエルマンノ・オルミ監督の映画が、超名作だったので、こちらで感動。

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