『サウルの息子』
2月に連続でヒットした観たぼく好みの良質の映画の紹介。
4本目は、昨年のカンヌをを征したハンガリー映画、『サウルの息子』。
久しぶりに震えた。ほんとうにいい映画である。間違いなく、今年度のベスト10に残る1本だ。
アウシュヴィッツを取り上げたホロコースト物は、年に2、3本は見る。封切られるのはもっと多くて、正直、食傷気味で、パスにもことも多い。既視感が強いからだ。しかし、この映画は、これまでみたホロコースト物とは、明かに一線を画している。
まず、素材がいい。ゾンダーコマンダーという、ユダヤ人の中から選ばれて、同胞をガス室に送り込むナチの殺戮工場の協力者に仕立てられる、ハンガリー系ユダヤ人の男が、主人公だ。
そして、カメラワークがいい。その彼の視線が中心なのだが、完全な主人公の一人称ではない。彼自身も映り込むからだ。といって、常に彼の視点から見える範囲の出来ごとなので、いわゆる神の視点や第三者からの映像はない。
当然、全体の視点も異なってくる。たった2日間の限られた時間の設定もあって、緊張感が漂った不安げな雰囲気が、バンバン伝わてくるのだ。
まさに、アウシュヴィッツは、まさに殺戮のための効率を優先された工場だ。どんどん囚人が送られ、大量殺人と、死体を始末するための流れ作業が、延々と続ていく。。ナチスも、ドンツ人に、汚い仕事はさせたくない。ユダヤ人のその仕事をさせ、普通の囚人よりも若干の自由もある。しかし、大量殺人の証拠隠滅のために、彼らもまた3ケ月ほどの周期で、ガス室に送られていくことになるのだ。
この世に、地獄があるとしたら、ここだ。そんな中で、人間性を捨てさせられ、精神を破壊された男が、『自分の子供』の死体発見したことから、人間性を回復していくのだが、、、。謎や不可解な部分も多い。
もう出尽くしたかと思っていたホロコースト物であるが、映画自体にも、新しい風が吹き込んだようである。
| 固定リンク
「映画(欧州・ロシア)」カテゴリの記事
- 東寺からみなみ会館へ(2023.01.03)
- フィンランド映画『トーベ』(2021.10.21)
- 新月断食の日に(2021.03.12)
- 『異端の鳥』(2020.10.23)
- イタリア映画『幸福のラザロ』(2020.06.16)