『ディーパンの闘い』
2月に連続で観たぼく好みの良質の映画の紹介。
3本目は、昨年のカンヌの最高賞を受賞した『ディーパンの闘い』。
ただ、最後が急にヒーロー物のようになってしまうのが、気に食わない。もちろん、彼の素性が明かにるなどの伏線があってのことだけれど。
いま、世界の喫緊の課題に、難民問題がある。この映画は、シリアからの難民がヨーロッパに大量に押し寄せる前の作品なので、その分、インパクトは強い。しかも、スリランカからの難民というテーマは、まったく予想外だった。映画でその背景にあるスリランカ内戦については、詳しく触れているわけではないが、いろいろと知る機会にはなった。
カンボジア旅行中、添乗員からウズベキスタンの旅を勧めれた。ぼくは、スリランカに行きたいと思たりしている。しかし、スリランカの現状については、何も知らなかった。
スリランカは敬虔な仏教国である。7割近い多数派のシンハラ系の住民は、仏教徒である。伝説では、ブッダ在世中ということになるが、実際は、アショカー王による伝播で、それだけの長い歴史と伝統がある。ところが、すべてが仏教徒というわけではない。主なものだけで3つの民族と、3つの宗教が混雑する多民族国家なのだ。その背景のひとつには、スリランカはセイロン・ティーでも有名だが、これが関係している。英国統治時代、安価の労働力として、インド南部の貧困地帯から、タミル族を連行してきた。彼らは、タミル語を使うヒィンズー教徒で、おおよそ人口の2割を占めている。そのほかにも、イスラム教徒であるムスリムが1割程ある。しかも、英国統治時代は、タミルなどの少数民族を優遇して、多数民族を統治した歴史がある(統治の常套手段。不満は、宗主国より、目の前の権力側の少数民族に向く)。独立後、多数派が実権を握ると、これまでの鬱憤を晴らすかのように、少数民族が冷遇されるようになる。すると、タミル側は、反政府勢力となって分離独立運動がおこり、内戦が続いた。タミルの虎である。紛争が完全に終結したは、ほんとうにごく最近のことである。
紛争中は、日本でも報道されていたが、一般には関心は持たれていない。内戦終結はしったいが、こんな悲惨な難民が生まれているとは、完全に頭になかった。難民キャンプといっても、実際は、何の援助が届かない。餓死か伝染病での病死を多くの人達が、絶望し、「死」を待つ場所となっている。
そのキャンプで、家族を失った男と、家族を殺された若い女と、孤児となって娘が、死者のパスボートを利用するために、疑似家族となり、パリに入国する話だ。ほんとうは、いろいろな困難があったのだろうが、入国までのトラブルは描かれず、物語は、同じ組織の縁で難民申請がとおり、バリ郊外の犯罪地区のアパートの管理人としての仕事を得てからの顛末が、主に描かれている。
ここもまた、先進国でありながら、落ちこぼれた移民の子どもたちが、麻薬などを扱う犯罪者や、貧困者の掃き溜めとなっている場所だった。
そこで、外からは家族のように見えるが、まったく他人同士である、大きな悲しみを抱えた3人が、反発しあい、学校や仕事で困難に直面し、時にはほんとうの家族のように寄り添ってみたり、また他人に逆戻りをしながら、ほんとうの家族になっていこうとする物語である。同時に、難民の問題に加えて、移民の子供たら-貧困層の若者が抱える問題にも触れる社会派ドラマ。
貧しくとも、家族との平和で、穏やかな、安らぎを得ることは、罪になるのだろうか。
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