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『雪の轍』

京都シネマで、『雪の轍(わだち)』を観る。

重厚なトルコ映画。200分(3時間20分)という長尺だが、映像の美しさと、クラシック音楽との調和。そして、さまざまな場面、状況において起る人間関係の機微を巧みにとらえている。対立と従属、会話と沈黙、そして、その底に流れている感情や心理描写が浮き彫りになってくる。名作というのはこんな映画を指すのだろう。でもいくら名作でも、自宅のテレビではきっと面白くない。こんな作品こそ、映画館で回りに邪魔されず、一気に観るものだ。

150705名な世界遺産、トルコのカッパトギアが舞台。これだけでも美しい。

父の残したホテルや土地、家屋など継承した資産家の男が主人公。もともとは一族の期待を一心に受けた舞台俳優だったようだが、引退して、父の後を継ぎながら、大作の出版を計画している。その彼を中心にしたさまざまな複雑な人間関係が、幾重にも露わになってくる。たとえば、歳の離れた美しい妻とのさめきった関係。離婚し戻ってきた辛辣な姉との関係、社会的な成功者と脱落者、いわゆる勝ち組と負け組との関係などなど、会話やその態度を通して、観るべき場面が多かった。

その中でも、いちばん心をひかれたのは、彼の妻が、罪悪感から、家賃を未納し強制執行を受けた店子に、大金を恵む場面だ。その大金を彼女の目の前で暖炉に投げいれる、彼のまなざしに震えた。このシーンひとつとっても名作。

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