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『おみおくりの作法』と『悼む人』

 ちょっと昔(3月半ば)に観た温かい映画の話。

 『おみおくりの作法』150207 大作ではない。しかし、孤独な人の心に、静かに寄り添うような、いい映画だった。

 全編、フィンランドの名監督アキ・カウリスマキに通じるようなタッチと、オフ・ビートのちょっと惚けたテンポの味がある。主演のエディ・マーサンは、けっして主役タイプではないが、ここでは彼の存在なくして、この雰囲気を醸すのは難しい快演だ。
  
 簡単なストーリーはこんな感じ。

  ロンドンのある地区の民生係、ジョン・メイ。身寄りなく亡くなった人を弔うのが彼の仕事だ。事務的に片付けることもできるこの仕事を、ジョン・メイは誠意をもってこなしている。時間をかけて孤独死をした人たちの生きた証を探し、葬儀にはふさわしい音楽を流し、弔辞を読み、たった一人でおみおくりをする。彼もまた私生活は一人だったのだ。しかし彼の非効率な仕事ぶりは上司に受け入れられず、解雇が決まる。最後の仕事は、彼の向かいの部屋に住んでいた男の孤独死だった。向かいに住みながらまったく面識はなかった。男の生きた証を求めて、彼も旅に出る。規則正しい生活を送るジョン・メイにとて、あらたな冒険の旅となった。

  そして思いも寄らなかった結末がやってくる。これは予想外。何度か観た予告編でも、そのあたりはうまくぼかしていた。迎えたラストシーン。

 ああ、滂沱の如く涙が溢れ出て、ちょっとうろたえてしまった。

 葬儀は、死んだ人を悼みながら、実は、生きている人がそのつながりを確認するものだと思うたけれど、こういう生きるl者も死者も無限のつながりの表現もあるんだー。ハートフルな映画。

  同じ頃、同じ死者を悼むという観点で日本映画の『悼む人』を観た。

  主人公のみならず、登場人物の個々(大竹しのぶ演じる母だったり、椎名桔平演じるルポライターだったり、または夫殺しでその亡霊に苦しむ未亡人役の石田ゆり子だったり)の個性やエピーソドが、これでもかというぐらい強烈で、それぞれにスポットをあてるものだから、結局、主人公のキャラが宙ぶらりんで、逆に映画全体に中途半端な印象しか残らなくなった。原作の小説ならいいが、時間に制限のある映画で、なんでもかんでも強いエピソードを重ねればいいというものではないのだ。

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