『パーソナル・ソング』~認知症を考える映画・第4弾~
認知症や介護問題を考えさせられる映画の第四弾は、アメリカ映画の『パーソナル・ソング』だ。
アメリカの認知症の人々も増加を続け、現在500万人以上といわれている。一方、日本では400万人以上とも、予備軍も含めると800万人以上ともいわれているが、完全な治療法はなく、医療費や介護の費用も増大する一途で、急激に超高齢化社会が進行する先進国では深刻な社会問題となっている。
もとIT業界にいたソーシャルワーカーが、Ipodを使って、ウツ的にふさぎ込んでいた94歳の黒人男性に、大好きだったゴスペルを聴かせたところ、その音楽と共に、突然スイッチがはいったように、陽気に歌い出し、音楽を止めた後も、饒舌に語り出すという反応を目撃する。
音楽療法というと、なにかクラシックのような高尚(クラシックが高尚だというのは認知の誤りであるが、一般論で)音楽を聴かせて効果があるとか、こんな音楽は、こんな症状に効果があるというのではない。前述のPPCと同じく、その人、その人の生育歴や過去を尋ねていくことで、一人一人の思い出のある曲、つまり「パーソナル・ソング」に出会うことで、その音楽と共に、過去の記憶が蘇り、止まっていた心や体が、活性化され、豊かな表情になるという事例が、目の前で次々と繰り広げられていくのだ。
完全な治療法がなくても、治療は薬の投与が中心で、莫大な治療費によって財政を圧迫しても、そこには業界と政界のオトナの事情も多々あるのだろう。当然、残念ながら、ひとり数千円のIpodを提供するという予算は生み出されてこないのである。
しかし、パーソナル・ソングを尋ね、音楽を聞かせることで、本来の内なる力を呼び起こすという試みは、大きな成果を生み出し、大きなうねりが生まれつつある。
大好きな、思い出深い音楽を聴いて、いきいきとした豊かな姿に変貌する姿は、感動ものだ。結局、ひとりひとりのパーソナル・ソングに出会うことは、目の前の人に向き合うことでもあるのだな。
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