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『和ちゃんとオレ』

 ドキュメンタリー映画「和ちゃんとオレ」は、息子介護の現状を映し出した衝撃的な作品だった。もともとテレビ番組を、映画版として再編集したものだ。

 中年(40~50代後半)の息子(独身)が、仕事を退職(離職)し、認知症や寝たきりの親(70代後半~90代)を介護する物語。

 母親(和ちゃん)を介護する野田明宏氏がメーン。母親ではなく、「和ちゃん」といっている。まるで恋人のようだ。介護のために仕事もできず、母親の年金(それなりにある)を頼りにしている。コンビニ弁当ばかりで料理も作らず、経済的にも、母親に依存して生きているダメな部分が、等身大で共感できる点もある。最初は、起こして壁に持たれさすと伝え立ちができるようなところから、いまは、胃ろうもし、痰も自分でとれず、意志も伝えられない。素人がみても要介護5の段階だ。最初、彼の言葉では、おむつの関係で、年老いた母親の性器を観るときに、最初の衝撃があったということだ。彼は、きれいごとではない介護の様子を、凡夫の生の声をブログで綴っている。孝行息子のように言われても、介護に疲れて、暴力を奮い、母親の肋骨も折ったとも、語っている。

 その野田氏が、完璧に父親介護する40代の息子さんを取材する形で紹介される。その介護ぶりや家の様子はすごい、すばらしいの一言。ところが、福祉は残酷だ。だんだんと父親の状態が悪くなると、人手不足(実際)であること、そして完璧に介護がこなせる息子が側にいることで、短期の入所さえも、受け入れが難しくなってきていることだ。まずは、独居へ手をさしのべるので、若い介護者いると援助の手は2の次になる。

  いわば、親のために頑張って、努力すればするほど、さらなる努力や頑張りを強いられていくが、今日の介護の実情だというのだ。  

 途中、介護に疲れて母親を殺害した息子が、母親を殺した部屋でのインタビューが挟まれている。

 この息子もまた、母親を愛し、介護することに情熱を傾けていた。脳梗塞で倒れた母親の余命は、「1年」と宣告された。1年ならばと離職して、介護を始めたら、それが8年以上も続くことになる。その間、1週間のショットスティでも「床ずれ」させる、施設のずさんさに、大切な母親は預けられないと、自分一人の手で母親を介護しようとする。入浴介護では、銭湯の気分を味わうために、部屋に富士山や華やかな花の絵で壁を飾り、身を粉にして母親の介護に邁進する。

 だが、現実は過酷だ。骨の髄まで疲れ果てたある日。酒を飲み、ベルトで母親を絞め殺してしまう。しかし、彼の献身的な介護は、近所の人々の嘆願書となり、また記録された介護日記から、殺人罪でありながら、執行猶予の判決となる。そのいわくつきの部屋で、母親へ介護の様子と、母親への思い語る姿をみれば、誰も彼を責めることはできなくなる。  

  行政や福祉のきれいごとやお題目ではなく、「いま、苦しい」「いま助けてほしいんだ」の、救われない生の声が、深く突き刺さった。

 まったく人ごとではない。胸がザワザワして、涙が溢れてきた。

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