三佛寺投入堂
鳥取の三朝温泉にほど近い三徳山三佛寺にお参りする。以前より行きたいと思っていたお寺だ。
「先月は、2件の滑落事故がありまして、一人は、頭がパックリ割れたけれど一命はとりとめて、もう一人はヘリコプターでやっと救出 されました……。どうされますか?」。冷笑のような微笑を浮かべて、受付の若い僧は尋ねた。
奥の院の投入堂までの行程は、単なる観光参拝ではなく、かな りの覚悟が必要だ。毎年、滑落による死亡事故が起っているようで、命懸けというのも大げさでないのかもしれない
。修験道の行者道で、神聖な修行の場に、観光客が土足で踏みいるようなものである。こんな言葉を聞くと、軟弱なぼくはビビッてしまう。第一、今日は、しんどいことをする気分も、体力もな
かった。本堂や宝物館を拝観し、遥拝場から拝んで帰ることにした。でも、下から眺めてもどこにあるのかがわからない。設置された双眼鏡で、やっと遥か遠くの投入堂を拝むことができた(写真は200ミリの望遠だ)。たまたま知人を案内されいた方が、お声をかけてくださる。「せっかく京都からお出でになって、ここで帰ったら大阪あたりで後悔しますよ。昨年も夫婦で登って、感激したけれど、往復2時
間足らずです」とお誘いをいただく。せっかくここまで来たのだ。麓からよく見えないので、戻って登ることにした。継職法要もすんだことだし、清浄な気分で修行
するのも悪くはない(?)
入山申請書を書いて、服装のチェックを受ける。軍手を購入し、このスニーカーではダメだといわれて、草鞋も1足700円也で購入した。裸足での慣れない草鞋で、険しい道を行くことになる。急に不安になった。こんな足元で、果たして岩や石だ らけの道なき道を行けるのだろうか。六根清淨の輪袈裟のお護り(?)を目印
に、いざ、スタート。すぐに「忌穢不浄の入山禁止」の碑がある。六根不浄だらけのぼくは、入山の資格すらないということだが、まあ仕方がない。すぐに、え-、どこが道なの? こんなところほんとうに行くの
か?という道なき道を進むことになる。自然の岩や木を頼りに進んでいく。岩や木はまだ登りやすいが、土の部分では確かに滑りや
すい。雨の翌日など、これは怖い。不思議と、お寺の方のお勧めの裸足に草鞋がフィットして歩きやすい。
両手をあけてくださいというのは、ロッククライミングのようで、足だけなく手も必要ということだ。青空が拡がり、緑も美しい。ところどころ に、お堂や祠が散在する。降りてくる方に声をかけてもらったり、声をか けながら、くさり坂の岩場をのぼり、
断崖に立つ文殊堂へ。景色がいい。風も涼しい。遥か山頂に雪を頂く大山も見える。た
だ、手すりのない縁側の下は断崖なので、みんなは怖がって おられた。さらに、地蔵堂を抜けて、鐘楼堂へ。こんな釣り鐘をどうして運んだのだろうか。小さな祠のような納経堂も、国 の重文に指定されている。く
り抜かれた大岩の中に立つ
観音 堂から、やっと奥の院の投入堂の前までたどり着いた。
入堂は出来ずに外から拝むだけだが、懸造 りの建築は、写真家の土門拳氏をして、日本第一の建築だといわしめたお堂だ。想像していたよりも小さい。だが、役行者が法力によって投げ入れたという伝承が、真実に思えるほど、こんな断崖絶壁の山奥に建てられたことを不思議に思う。汗だくに
なりながら登った甲斐がある。しかし帰路を考えると安心した気分にはなれない。事故は、下山時に起っているというから、要注意。なんとか、ゆっくり 写真も撮りながら往復100分ほどかけて下山して、冷水で汚れた足を洗うと、なんともいえない清々しい気分になった。うーん、たまには修行をするものいいなと思いながら、お腹が空いたので昼食は何にしようかと考えるありさまだ。結局、身についた虚仮不実、不浄は拭えないことを有り難く感じさせてもらった。
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