『ホームレス理事長』~5月に観たドキュメンタリー(1)~
東海テレビ制作のドキュメンタリーの劇場版。
これまでも、戸塚ヨットスクールの現在を見つめる『平成ジレンマ』。四日市公害裁判を正面から取り上た『青空どろぼう』。そして、「オウム真理教事件の麻原彰晃、「和歌山毒カレー事件」の林眞須美、「光市母子殺害事件」の元少年など・極悪人・死刑囚を本気で弁護する安田好弘弁護士の壮絶な生きざまを描く『死刑弁護人』など、見ごたえのある作品が多い。
http://karimon.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-669e.html
『ホームレス理事長』~退学球児再生計画~は、異色作だ。映像を見ないと絶対に分からない、奇妙な、面白さがある。
高校の野球部に入りながら、さまざまな理由でドロップアウトした球児達に、もう一度、野球と勉強の機会を!という理念で、NPO法人ルーキーズが創立される。いわば、若者の再チャレンジの場である。たとえば、高校野球の特待生として名門の野球部に入った生徒が、なんからの事情で野球部を途中退部したなら、彼らの末路は容易に想像が付くだろう。華やかな高校野球の裏側に、ドロップアウトした球児達もたくさんいるのだ。でも一度、躓いた子どもたちに、落伍者として、次のチャンスはない。しかし、そんな成果主義や格差社会が進む日本において、前途ある若者に再チャンスの機会を与えるという理念は、わかりやすく、また尊いものだ。
しかも、この理事長は、純粋にそれを信じて、毎日、ひたむきに邁進している。理念を語るだけでなく、自ら、私財をなげだし、電気も水道も止めれていたアパートは家賃怠納で追い出され、車やマンガ喫茶を転々としながら、ひたすら資金繰りの奔走している。けっして金儲けでも、裏があるようにもみえない。
と書くと、とても立派な人物に見える。ところが、この理事長が何かへんなのである。画面からも、お粗末さが醸しだされて、信頼できる感じがまったくしない。資金繰りのために、闇金に手を出す。撮影スタッフに土下座して、借金も頼む。行動が、いきあたりばったりで甘く、そして、尊い理念とは裏腹に、言葉がなんとも軽いのである。
一方、この野球部監督をまかされたのは、有名高校を育てながらも、信念を貫くために、保護者と対立し、暴力監督として、社会から一方的なバッシングを受け、高校球界を永久追放された監督である。球児もそうたが、監督も一度、落伍者となったのだ。それが、今回、自暴自棄になって、親の前で自傷行為をする子どもを、本気になって何度もビンタし、諭す場面が描かれる。暴力事件以来、手をあげることのなかった人が、カメラの前でもかまわずに手をあげていくのだ。その本気度が、グッーとくるものがあり、何か信頼できる感じが伝わってくるのとは、また対象的である。
なんとも、不思議な雰囲気だが、理事長は何か憎めない感じはある。でも、これだけではうまくいかないだろうなーという確信をいだかす。結局、この理事長、他人に甘えているだけで、本気で、自分も、人も信頼することができないのかもしれないなー。
なんら結論はでないが、いろいろな思いが去来する映画だった。
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