『声をかくす人』
『声をかくす人』というタイトルに、まず引かれた。
名優ロバート・レッドフォードが、実話に基づく重厚な時代物の社会派ドラマを監督した作品。
冒頭の戦場シーンやリンカーン暗殺場面もあるけれど、あとは法廷劇や室内劇がメインの、静謐な展開。時代考証も丁寧で、画面は暗めだけれど、それがテーマの重厚さをあらわしているようで好感も持てる。
南北戦争時代のアメリカが舞台。北軍の勝利がほぼ決定した直後、南北戦争の傷跡が痛み中で、南側の人間によるリンカーン大統領暗殺という大事件が起こる。主犯格の男は射殺、ほとんどの共犯者も逮捕される中で、首謀者たちを自宅に下宿させていた、南部出身の下宿屋の女将も、共犯として逮捕される。
しかし、戦時下のこと。大統領暗殺のみならず、副大統領や閣僚も狙った国家転覆の大事件だ。推定無罪の可能性が大きい一般女性が、軍事裁判での不当な裁判を受けることになる。
彼女を弁護するのは、リンカーン大統領の側近だった上院議員。しかし南部出身者ということもあり、彼の部下で、北軍で勇敢な戦功もあった将校が、弁護士として活躍する。これをジェームズ・マカヴォイがかっこよく演じます。彼は北軍のエリート、当然、一般感情と同じく、重大犯罪を犯した彼女が許せず、極刑(公開の絞首刑)の支持していたのが、上司の無理強いもあり、彼女に接するうちに、この裁判の不当性、国家権力による「生贄」として裁かれる彼女の無罪を信じて、どんな妨害にもめげないで、国家権力との戦いが始まる。
アメリカ初の女子死刑囚メアリー・サラットを演じるロビン・ライトが、派手さはないけれども、女性の死刑囚として、また守るべきものを持つ母として、押さえた演技で渋く演じ、また司法長官から陸軍長官として判決を作製したケヴイン・クライン他、脇役もみな堅実な演技で、派手なアクションや展開はなくても、なかなかしっかりしている。結局、正義とはなんだろうか。法のもとの平等といっても、それ以上に大切なものがあるのか、ないのか。強大な国家権力を駆使してまで、莫大な被害で国家を二分して戦争(内戦)と、その後の大統領暗殺という悪夢の恩讐を一刻を早く超え、国民を一丸としてまとめるために必要だった生贄なのか。それとも、いかなる時、いかなる事情があっても、不変の法の正義があるのか。それを貫くための奮闘する正義の弁護士と、国家の大局にあって、強権で卑怯な手段をつかってまでも、国家の意志を貫く長官との対決。そこに、自らの身を賭して、わが子を守ろうとする母親の愛情が絡んでいきます。正義以外は、声を隠さざるをえないのかもね。
社会の正義、その不条理。さらには、人間の尊厳にもかかわる問題も見え隠れしするけれど、重厚さだけでなく、エンターテーメント性もあって、退屈はしなかったなー。
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