『Japan In A Day』
朝から、二条にある大手のシネコンで、リドリー・スコットが総指揮をした『Japan In A Day』 を観ることにした。
リクライニングや置き机もあるブレミアのスクリーンは快適だ。9時50分スタートと少し早いこともあったが、見事に誰もいない。3~4名という少人数は何度も経験しているが、一人でスクリーンを独占したことはまだない。初の快挙(?)かと喜びかけたら、予告編が始まってしまもなく、オバャチンが入ってきて、残念。結局、客は2人だけだったが、人数が少ないからといって、つまらない映画というわけではなかった。
東日本大震災から1年半以上が経過し、大震災や原発事故に関連する映画やドキュメンタリーを、よく目にするようになった。まもなく、京都でも、森達也監督の『311』が上映される。当然、ストレートに被災地や被災者を描くものが多いが、本作は別。大震災からちょうど1年後の2012年3月11日に、一般人々が、その日に撮影した日常のビデオ映像、投稿作品をさまざまにつなぎ合わせて作られている。もちろん、原発や大震災での被災者や遺族、被災地の映像も多い。しかし、その視点が自然なのである。つまりは、普製作者側からの視点ではなく、被災者自らのセルフ映像やホームビデオという自然な日常の視点なのである。悪くすると、なんの脈絡もない、素人のホームビデオの細切れを寄せ集めたもので終わる。
ただ、それが、大震災後ちょどう1年目の3月11日の映像に限定され、その日、日本全国で行なわれたイベントやこくごく平凡な日常を多数含みながら、そのメーンは、大震災で起こったことを語っているのだが、その編集がすばらしかった。
3月10日午後11時59分40秒あたりから始まるが、時報に合わせて、タクシーの時計が0時0分を告げる。大都会東京は、いつもとなにも変わらない。暗くなったとはいえ、ネオンがきらびやかで、0時を過ぎても盛り場は賑やかだ。若者たちが飲み、歌い、踊り、ふざけ合っている。ふと、この電力を生み出しているのはなんだったのかを意識させられた。一方、東北は、雪交じりの寒々としている。暗い海に波が押し寄せる。原発事故での立入禁止区域の看板が映し出される。セピアの夜明けシーンが美しい。熱海では桜が咲いている。京都ではマラソン大会があった。ハングライダーやスカイダイビング、雪山登山や海水浴などスポーツ・シーンに、パフォームやいたずらで遊ぶ若者たちもいる。そして多くのごく普通の日常。朝の寝起きに、家族何気ない会話、食事をする人達、働く人達、無邪気に会話したり遊んだりする子供たち、特に赤ん坊や幼い子供たちの映像が多かったのは、意図されたものであろう。日常の中の非日常もある。出産もあれば、結婚式もある、慰霊もある。病院や老人、その日に、プロポーズする様子まで收められていた。震災とは、直接、関係なさそうなシーンでも、音楽と共に流されるだけで、何か胸にくるものがあった。それが震災の映像とリンクされて、さまざまにモンタージュされることで、3月11日の意味が問われてくる。
とはいえ、やはり震災の被害者たちとの生の声や映像に、大粒の涙させられた。まだ若い男性。仮設住宅には、スナップサイズの4名の遺影が並んでいる。津波によって、両親、妻、そしてまだ幼い一人子の4人が、車で避難中にそのまま巻き込まれ、一瞬にしてすべてを亡くしたことを、妻の兄弟たちと故人を偲ぶながら、にこやかに関係を紹介し、時に笑い声で思い出を話している。しかし、その淡々とした口調にこそ、この1年間の彼の悲しみや苦しみがダイレクトに伝わってきた。また、なぜ、一声、隣人に避難の声をかけなかったのかと、跡形だけとなった家で、自分を責めながら遺品を探す老夫婦。津波の中での避難で、周りで溺れる子供たちを見殺しにして、子供を踏みつけて自分だけが助かったのだと、涙で懺悔する方など、生の声が直接、胸に届いてきた。そして映画のクライマックスは、発生時刻の2時46分に、日本中で行なわれた追悼たその黙祷シーンだ。さまざまな角度の映像が束ねられていくところも、かなり泣かされた。
ぼく自身も、この1年半の激動の日をいろいろと振りかえさせられた。結局、単なる大震災の被害ということだけでなく、さまざまに切り取られた1日の一こま一こまがつながることで、自分が生きるとはどういうことなのか、人生とは、が問われているように思えたからだ。
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