『アイスバーグ!』と『ルンバ!』
京都シネマで、新作なのに2本立てで映画を見た。ベルギー・フランス合作の『アイス・バーク!』と『ルンバ!』だ。2本立てなんて、久しぶりだ。1本の値段で2本も見れるんだもんなー。1本450円也。安くても、面白くないものはいやだが、これは内容がなかなか新鮮で、奇妙な驚きがあった。ある意味、拾い物かもしれない。決して、大作ではないが、オリジナリティーに溢れている。最近のヒット作は、焼き直しやリメイクばかりで、そうでなくても、なんてなく結末やネタが分かっているものばかり。その意味では、本作のストーリーは予想不可能。ある意味、荒唐無稽といれば、そうなんだけれども、「どうして」「なぜ?」なんか思っちゃいけない(というより、そんなことは問題にならない)。ある種、不条理は不条理として画面を楽しむ。第一、細かなストーリーなんか関係ないよう(セリフも説明もない)で、実は、けっこうそこに引き戻されたりする。その身体的なパーフーマンスを味わうべし。
映画の前の予告編は、ウディ・アレンの新作(人生万歳!)コメディ。あいからず、知的なセリフや言葉が溢れるように出ている。見るからに面白そう。しかし一方で、こんな映画もあるんだなー。セリフは極端に少ない。笑いもズレている。斜に構えて見たなら、きっと面白くないだろう。しかしセリフが少ない分、パンタマイムや道化師のように、身体を使って笑わせる。これがなんともすごいのだ。単なるドタバタでもなくて、むしろ笑えないことも多いが、この不思議な世界に嵌まると、そのズレ具合が無性におかしくなる。まさにオフビートの笑いだ。そして、背景や小物もすごくオシャレ。服装の色使いもシンプルなデザインながら、原色が多様されて、組み合わせも鮮やかで、美しい。
まずは、『アイスバーグ!』。アイスバーグとは、氷山のこと。
冒頭、地球上で最後にイヌイット語を話すという女性が登場して、「どうようにして夫と出会ったかをこれから話します」というシーンから始まる。ところが、一転して、フォミレスの店長の女性が主役になる。旦那と子供二人と、郊外に住宅街に住んでいる。その彼女が、店の冷凍室に閉じ込められたことから、家族と旦那との間に溝に気付く。いや、冷凍室から戻ると、強く氷山に魅せられていく。冷蔵庫の冷凍庫の氷で氷山を造る。寢室のベットでは、あまりにも寝相が悪くて、旦那を落とし、シーツでパフォーマンスでは、シーツとからだ、無意識に氷山の形になっている。このシーンなど、前衛的なダンスだ。不法移民や港町の老人。集団の動きも奇妙でいい味。ついに、氷山を目指し、鄙びた港町へ。そこで、寡黙な(実はあまりの衝撃的な不幸で、口と耳の機能を失った)船長に出会う。船長といっても、小さなヨット。その名も「タイタニック」号。執念で追いかける旦那。三人の海上での、奇妙なドタバタ喜劇と、ダンスというか身体パフォーマンスの連続。そして、ついに船は氷山にぶつかり、知らぬ間に、冒頭の話へと戻っている。結局、収まるところに収まったようだ。
5分の休憩を挟んで、『ルンバ!』。前作の、監督も主演も、同じコンビで、こちらも夫婦役。主な出演者も同じで、ふたりの間に入って、外からふたりの運命を引き裂く男も同じ。二人は、ベルギーのカップルで、フランスとベルギー合作映画だ。フランスでも、ドイツでもないところに、この映画の妙があるのかもしれない。フィンランド(アキ・カウリスマキぼかったりする。まあタチ風だったりもするが)やノルウェーとの大国に挟まれた国で、この手の映画が造られるのは、ある種、必然かもしれないなー
ここでの二人は小学校の教師。男性は、体育、女性は、英語。ふたり趣味は、ラテン・ダンス。ルンバを睦まじく踊る。しかも、地区の大会で優勝する実力者だ。ダンスシーンが、とにかくいい。バックもおしゃれ。と、ここまでは、まったく楽しくて、美しくて、素敵な映画だ。ところが、二人の幸せなが、突然、音を立てて崩れていく。「なぜはない」。ある大会で優勝した二人。楽しげに、帰宅につく車。突然、自殺願望の男(前作の船長)が立っている。彼を避けようとした車は大破し、二人は大怪我を追う。そこからは、ただただ転落の一途。
妻は、片足を失い、夫は、記憶を失う。過去の記憶だけでなく、短期記憶が破壊されて、すぐ前のことが記憶できなくなってしまう。妻のことも分からないし、すぐに忘れる。もうここから、いくら面白いシーンがあっても、笑えなくなる。片足のからだや脳の障がいの失敗をネタにしていくからだ。これはある意味、残酷なのだ。しかも、そのからだではお互いに失敗ばかりで学校もクビになる。妻は、過去の栄光のトロフィーや写真を焼き捨てようと、二人でお別れのたき火をするが、それが義足に引火して、家まで全焼してしまう。しかも、パンを買って戻ろうとした夫は、道に迷って、海辺の町へとさすらい強盗に襲われる。そこで、彼を助けるのは…。なんとも切ない哀愁を帯びた色に染まり、残酷ながらも、どこか温かだ。
それにしても、海がきれいだ。これは、前作も同様だか、この映画なら、狭い部屋から窓越しに見える、海がなんともよかった。その海を舞台に、妻の回想的なダンスシーン…。うーん、哀れだけど、美しい、純愛もの。
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