『しかしそれだけではない。~加藤周一 幽霊と語る』
京都シネマで映画を2本。
最初は、享年89歳で亡くなった、加藤周一の独白、『しかしそれだけではない。~加藤周一 幽霊と語る』。一旦断定して、そこを反転して、さらに複眼的にとられる視点が、「しかし、それだけではない」という、このタイトルにこめれているというのだ。「幽霊たびたび出会うが、みんな友好的なので怖くない。幽霊は歳をとられない。戦前、戦中、戦後と生き延びた人は変化して、意見を変える。だけど、幽霊の意見を変えない」と始まる。といっても、別にオカルト的な憑依ではない。「変わらない世界から、豹変しつづける世界を観る視点」といっていい。戦後日本の代表的知識人であり、医学博士であった加藤周一の歩みと、彼の最後のメッセージを伝えるドキュメンタリー。彼の博覧強記ぶり驚くのだが、幽霊と語るというのは、その思想性の深みが、生死を超えた死者との理性レベルでの魂(精神)の声を聞く域にまで達しているということなのだろう。人形浄瑠璃、世阿弥、そして源実朝に始まる冒頭から、権力の犠牲となり、若くして戦死していった師や学友たちとの交信(知的な憑依)にしても、そのエピーソドにしても、さまざまに知的好奇心を刺激される。そして、「九条の会」に込められた願い。精神の自由がある、若者と老人の連帯を訴えている。権力による殺人である、戦争や死刑に反対し、子どもの不条理な死(死ぬことは、不条理なんだけども)にも不快感を示している。
彼の話は刺激的で面白かったが、ちょっと編集が退屈だったな。それより、今日は疲れていたので、けっこうな熟睡も与えてくれたことを、感謝? この手の映画でも、連休が終わった翌日なのに、そりなりに人が入ってる。このあたりも、京都なんだなーと、妙なところで関心したが、わりと年輩の人が多かった。
もう一本は、低予算ながら、知的なSFサスペンス、『月に囚われた男』。登場人物は、ほぼ1人に、人工知能ロボット。シンプルながら、斬新なアイディアで、けっこう楽しめた。少し余韻が残った。
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