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『親殺し』

  「あなたは、子どもを殺してはいませんか?」

 「親殺しには、子殺しが先行しているのです」

 という、かなりセンセーショナルなオビのキャッチがついて、タイトルも、『親殺し』 。

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もし、著者が、親鸞思想との関係で発言もする芹沢俊介氏でなければ、手にとることはなかったろうが、中味をみて驚いた。信巻の逆謗摂取釈に長々引用される王舎城の悲劇を、今日の日本で実際に起こり、みんなの記憶にも残っている青少年による親殺しや無差別殺人と結びつけて、「親殺しには、(精神的な)子殺しが先行している」という、著者の持論が展開されていくからである。

 取り上げられる事件は、本来親殺しになったはずが、無差別殺人へと展開した秋葉原事件や、奈良の田原本での医者の家族での事件など、大きな社会問題になった事件がほとんどだ。正直、殺しの手口などの詳細を読むと、猟奇的な殺人(または未遂)もあって、目を背けてくなるものもある。でも、それが猟奇的であればあるほど、親子関係の複雑さによる屈折した心理が現れだと思えてくる。

 当たり前の話だが、子どもの時代は、親子関係(もしくはそれに変わる関係)が、社会関係のすべてであり、絶対的なものである。たとえ成人し、さまざまな人間関係が拡がったとしても、幼児期の親子関係こそが、その人の人格形成に多大な影響を及ぼすことは歪めない。そのときの未消化だったり、不十分だったり、未熟だったり、もしくは本分と逸脱した不適切なものであった場合、その後の人格形成のみならず、(本人が意識しようが、封印しようが)心理的影響、対人関係に大きな影を落とすことになるのである。

 本書では、実際に起こった最近の親殺し(未遂もふくむ)を、親が(精神的に)子ども殺す四つの要因として

 「教育家族」という要因
 「離婚」という要因
 「対人関係」という要因
 「挫折とコンプレックス」という要因

を上げて、事件の詳細な経過と共に、その家庭環境(特に親子関係)を、独自の視点から分析している。多少、強引(こじつけ)と思える分析も(分類)あるが、結局のところ、「親殺しには、子殺しが先行している」という点に収斂されていく。

 ぼくには、教育家族なので、いい子を演じる子が、自分のなにかを殺していくプロセスがなんともせつなかった。結局、殺すべき自分が枯渇したときに起こる悲劇が、自己に向くのか、親(社会)に向くのか。教育家族も、離婚も、対人関係のスキルの未熟さも、どこにでもある話。それが悲劇に向かうのは、「さるべき業縁催さばいかなる振る舞いもすべき」身のおそろしさであろうか。

 最後に、本書では、ウィニコットの「子どもはだれかといっしょにいるとき一人になれる」という命題を引用し  「隣(とな)る人」(菅原哲男氏の造語) を心に持つことで、人は安心して一人(自立した自分自身)となると述べている。

 それを阿闍世の場合での、ギバ大臣の役割に注目している。これはなかなかの卓見で、『涅槃経』では、五逆・法謗・闡提の三病は難治の機で、声聞、縁覚、菩薩では絶対に救われないが、ただ仏のみ救うことができると示している。(これは親鸞聖人にとっても、自身の救いに投影される最重要なテーマで、信巻末の大半は、これに裂かれる)

 親鸞聖人、当面では、弥陀の救済以外に難治の三機は救われないというのであるが、でも、いきなり仏の救済のみが飛出しているのではない。実、そのみ仏への救済の道を開くものこそが、善友の働きであると、ギバ大臣と阿闍世とのかかわりが詳細に述べられるのである。いま、それを略するが、信巻のこの関係を読むと、いまの私達の獲信への契機となんらかわりないことに、感銘させられる。実際、釈尊の阿闍世への働きは、常にそれに先駆けるギバのすすめがあり、それに呼応して、「月愛三昧」で阿闍世の体を救い、それでもまだ躊躇する阿闍世に仏に会う事を促し、無間地獄に落ちと震える阿闍世に応えて、同じ象にのって、釈尊のもとに向かうのであるが、もうすでにこの一方の踏み出しで、勝負があったといっていい。

 そこで、釈尊が語られることは、阿闍世の業魂の救済であると共に、宿命通という神通力をもった聖者のみが語れる、過去に遡り、彼が親殺しをせねばならなっかった父王やイダイケ夫人による子殺しの因縁である。つまり、前世においって(仙人であったとき)に二度、そして子どもと生まれた直後に1度、つまり三度も親に殺された阿闍世の因縁話を説かれるのである。

 確かに、親殺しの前に、子殺しが先攻しているのである。

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