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『牛の鈴音』

 「その老いぼれた牛は、お爺さんと一緒に30年も働き続けた」というキャッチがつけられた 『牛の鈴音』

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 郷愁を誘う風景と、現実の厳しさと、消えていくものへの哀愁と切なさ、そこにユーモアも加わり、最後には深い感銘を残す、韓国発の異色ドキュメンタリーだ。

 主人公は、 田舎で、時代の流れに取り残されたように暮らす老いた農夫と、その妻、そして一頭の超高齢の農耕牛だ。固定キャメラが多用されて、老夫婦と牛の姿がじっくりと捉えている。しかも、こんな地味なテーマなのに、ドキュメンタリー風のナレーションやインタビュー映像もなく、BGMもあまり使用されない。それでいて、まるで家族の一員として、ぼくもそこにいるかのような、一匹と牛と、老夫婦の間で自然体のドラマが展開していく。脚本があるんじゃないかと疑うほどの(もしそうなら、こんな名演はない)、ほんもの劇のように仕上げているのだ。

 なんとていっも、夫婦のやりとりがすごい。まるで機関銃のように朝から晩まで、自分よりも牛を大切にする(不器用な)夫をけなし、貧困を嘆き、不満を愚痴り続ける妻。

 にもかかわらず、馬耳東風(いや牛耳東風かな)で、飄々としながら、牛を愛し続ける夫。老いぼれやせ細った体は、日常生活もままならほど痛んでいるが、それでも頑固にも昔ながらの手間隙かかた方法で、老いぼれた牛の世話をし続ける。まさに人・牛一体となって、小さな畑を耕し、やっと日々の糧を稼いでいる。

 60年近くを添い遂げた二人の当意即妙のやりとりが、なんとも面白可笑しい。

 そして、大切なもう一人(いやもう一頭)の主役が、老いた農耕馬だ。なんでも、牛の平均寿命は約15年だそうだが、この牛はなんと40年も生きているという。飼い主同様、もうガタガタなのであるが、なんともいえない存在感を示している。

 つまりは、みんな強烈なキャラクターの持ち主がそろったのが、この映画の面白さであり、魅力である。しかし、ただ、郷愁を誘う美しい田舎の風景や、ユーモラスなやりとの面白さだけが、この映画の魅力ではないことに気付かされる。

 こんなシーンがある。牛のために、妻の世話はせずとも、手抜きせずに飼料の草を刈りにくでる。老いた不自由な体へのたいへんな作業に、妻が「市販の飼料を買えばいい」と愚痴ると、「なんでも楽にすることばかり考えるな」と、夫が一蹴する。そのおかげ、牛を長寿でいるのだ。彼は、効率とか、楽ではなく、ひたすらこれまでの(一見)不自由なやり方を頑固にもやり通しているのである。文句を言い続け、ひたすら不幸を愚痴り続ける妻も、結局、それにしたがって生活しているのだ。
 ところが、田舎を離れて、都会で暮らす子どもたちが、それぞれの家族連れで老夫婦の元にもどって来る。食事をしながら、便利さや効率という視点からだけで、一方的に手間ばかりかかって、役立たない牛を売却することに、さっさと話が決まっていく。しかも、それを親切げに、年老いて親の幸せだと説得するのである。その様子を、ひとり離れたところから、寂しげに見ている老父。休暇が終わり、また都会へ帰っていく子どもたち。

 この50年近く、利便性や効率、利潤ばかりを追い掛け、それが得られることが幸せだと信じて邁進しているぼくたちが、忘れてしまって大切なものを静かに教えてくれているように思える。しかし、それはもうすでにぼく達の生活からは消えてしまっているという、現実の切なさにも直面させられるのである。

 まったく地味な映画が韓国では異例の大ヒットで、社会現象になった。日本でも、ぼくが観た回は、年配者を中心に立ち見になっていた。ユーモラスなやりとりや映像に大笑い、そしてまた切なさに涙し、そして彼らの愚直な生き方に共感されている。これは、若い人にも観てもらいたい作品だなー。

 

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コメント

固定カメラっていうとこに興味をそそられます。千年の祈りも行きたいけどこっちも・・・。(それよりいつ上映されることやら?)

投稿: relax | 2010年1月29日 (金) 22:26

relaxさん、お久しぶりです。
 きっと、これは地方でもあると思いますよ。こちらのほうが面白いです。
 いま子ども寝かして、(冬は添い寝していると、起きたら寒いわ)これから、今日のノルマまで「和讃」の作業ですね。ちょっと遅れてますので、もう一頑張り。。

投稿: かりもん | 2010年1月29日 (金) 22:48

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