『THIS IS IT』
『THIS IS IT』を見ていると、 -マイケル・ジャクソンという大司教が、信者の前で、最高の祭祀、祭礼を挙行する-そんなイメージが浮かんできた。もうここまできたら、単なるエンターテイメントやパフォーマンスの枠を超えた宗教性すら帯びて来る。実際、彼を「神」と信奉する信者も多かったのだろう。
ぼくは別にMJファンでもないので、逝去のニュースに驚きはしたが、別段の思いを持たなかった。でも、そんな程度のものでも、このリハーサル風景から完璧を求める天才ミュージシャンの情熱に撃たれて、胸が熱くなってきた。
2009年6月25日、キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソン、急逝。復帰ステージと位置付けたロンドン公演への膨大なメイキグフィルムを映像化したもので、死の直前まで行なっていたリハーサルの模様を収めた貴重な音楽ドキュメンタリーだ。一小節、いやほんの一音の雰囲気や数秒の間合いにも妥協せず、監督に委ねずに指摘できる並外れた才能と、完成度の高い舞台をめざすその情熱、そして、その高い要求に応えるだけの力量をもったダンサー、ミュージシャン、スタッフ、映像関係者の隅々にいたるまでが、世界中から彼のために集まった一流の人達、彼らの一体感を生み出すその求心力…。音楽的才能にしも、まだウォーミングアップで押さえぎみだが、すでに圧倒的だ。そして、50歳にして、このシャープな動き。一流の若いバックのダンサーの中でも、ひときわ異彩を放つダンス。これが報道されるような薬物過剰摂取で亡くなる直前の人間が見せるパフォーマンスなのかと、正直驚いた。
重ねるが、その過程で見せる妥協のない姿勢と、そのプロセスから生まれるパフォーマンスに、しばしば感動させれた。かっこいいのだ。彼は、テンポ、リズム、その間や余韻まで完璧を求めて、スタッフに次々と細かい注文をつける。しかしその口調は穏やかで、人柄が垣間見えるようだ。バックダンサーのひとりが、彼を「とてもフレンドリーで、謙虚だ」と評していた。最近は、ゴシップや裁判、プライベートの奇行ばかりが話題となって、どうも人間不信や奇人変人というイメージをもっていたが、スタッフやメンバーには「愛」あるファミリーとして信頼していたのだろう。彼のインタビューはないが、何度もそんなメッセージをスタッフやメンバーに伝える場面があった。それだけに、この完成度で、直前の本番を迎えられなかった彼らの落胆は言葉にならないものだったろう。
あと、コンサートで使用予定だった映像も面白かった。CGを使って10人のダンサーを数千人、無数にみせたり、「スリラー」を3Dで撮ったり、ハンフリー・ボガードの古いフィルムと共演する映像なとが、舞台がシンクロし一体化して進んでいく。最後、映画タイトルになった名曲が流れるが、このタイトルこそがテーマでもある。
欲を言えば、全般にあまりにも彼を美化した作りであることか。確かに才能はあったし、ポジティブの面はよくわかったが、この復帰公演に向けて、悩んだり、ナィーブになったり、ぶつかったりすることはなかったのだろうか。まあ予期せぬ追悼作品なのだから、それもよしとしよう。ただ、彼の理念や日頃の行動の延長だが、「愛」とか「地球を癒す」といってメッセージが最後のほうは続いて、少々しらけた。エコとは逆行するような超ド派手で、莫大な金をかけた舞台裏を見せられるとなー。
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