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原稿書き~全徳施名のこころ

  ある寺院のイベントにお招きいただいたが、ついでに原稿も書けとの依頼があった。テーマが「南無阿弥陀仏」ということだったので、ちょうど華光誌に掲載した「全徳施名のこころ」をごく短くすることにした。もともと、この法話は、一眼レフカメラの購入の顛末の損得の話と、日曜学校で聞いた、ある坊守さんの「徳まんじゅう」とが、うまく合体したものだ。字数の制限が1600字だったので、華光誌をかなり省略した。〆切に間に合ったので、一部は華光誌と重複するが、ここにも掲載しよう。

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 ある坊守(ぼうもり)さんが、饅頭を分けたら大小が出来た。すると「トクある方を取るのは誰?」と言われた。どっちが得か? 大きいほうでしょう。わが家でも、見た目の大・小で、姉妹ゲンカ。大人には他愛ない話だが、これが遺産相続だったらどうなるか。兄が家と土地、弟は現金だが、その差が激しいとなると、絶対に揉める。お互いの伴侶も加わり、仲の良かった兄弟が争い、裁判沙汰にもなる。国と国でもそうだ。日本名の竹島はどの国に所属しているのか。日本の全体の領土から見たら、ちっぽけな面積だが、絶対に譲れない。何故か? みんな損は嫌だ。損するのは馬鹿者。得して幸せになりたい。だから、1円でも損すると、怒り狂い、傷つけ合って、「勝った、負けた」を繰り返している。智恵をつけて偉そうなことを言って飾っても、私の腹底は、子供の時の饅頭争いと同じで、何も変わってはいない。
 新年の年賀状も、ますますの「ご多幸」を祈る内容ばかりだ。結局、自分が得して、幸せになることが善なのだ。そして家族が健康で、平和で過ごしたい。その願いだけで生きている。つまりは「鬼は外、福は内」だ。鬼や不幸は外、福は内。嫌なものを自分から遠ざけ、幸せを招きたいという「攘災招福」(じょうさいしょうふく)の現世利益信仰が、花盛りだ。

 しかし、その得や楽を求めている私そのものが「間違っているぞ」と、身を捨てて言ってくださる方がおられる。私は、大きい得を取るのに必至だが、坊守さんの「トク」は、損得の得でなく、「徳」ということだ。それは小さい方に付いている。今は、損得の得だけ。少しでも効率よく、楽して得するのが幸せと、みんなが信じきって邁進している。しかし勝った、得した陰には、必ず損をして、泣いてる人がいる。馬鹿者と嫌われている人がいる。だから「喜んで損を取るものに、大きな徳があるよ」とおっしゃった。

 これが、私達の損得の物差しの世界とは、次元が全く違う仏様のお法りの心だ。常に損や嫌われる側を喜んで引き受けて、私に呼びかけて下さる大きなお徳を持った御方がおられる。ところが、私達は、それを馬鹿者、愚か者、負け組と言って遠ざけている。でも、その心で立派なご信心だけは都合よく頂きたいの欲は一杯ある。そんな愚かな私に向かい、なんと自分のご苦労されたお徳を全部封じ込めて回向して下さっているのだ。菩薩は百千万劫の間、馬鹿にされて罵られても、一度たりとも瞋恚の心を起こされず、またどれだけ褒め、賞讃されても、自惚れることもなかった。そして、一心にその真実心、清浄心で自らの行を励み続けて下さったのだ。どれだけ批判され、馬鹿にされ、無視されても、ひたすら自分の命を投げ出し、てのおを余すところもなく、全部まるまる南無阿弥陀仏という六字の御の封じ込め、私にそうといわれるのが、全徳施名のお心だ。すべて如来の大悲心から起こっている。
 世間の損得なら計算外の大損だ。しかも、施そうと願われている私は、そのお心を疑い、罵り、悪態ばかりついている。でも、この浅ましく、自分の欲得で、楽して得したいだけの私めがけて、「どうか、その苦しみの世界を離れ、我と同じ仏になっておくれ」という願いに貫かれたお方が、南無阿弥陀仏という聞き易く、称え易く、保ち易い名となって、自からがこの愚かな私ひとりのために、命を捨てて、わが腹底に飛び込んできて下さっている。これが私に届てくる南無阿弥陀仏の壮大なお心なのだ。

 せっかく人間に生まれさせてもらったのに、後生の一大事も問わず、ただ損得の幸せだけを追い求めて命終わっていては、あまりにも勿体ない。今こそ「南無阿弥陀仏」の叫びを聞こう。「南無阿弥陀仏」の命懸けの響きを聞くのだ。そして、その響きが耳に聞こえるなら、聞こえるまま「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と口に称えさせてもらおう。まさに念仏循環だ。全ての徳を余すところなく封じ込め、私一人に施された、名と体が一つになった南無阿弥陀仏を聞かずに、他に何を聞くというのだろうか。

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南無阿弥陀仏

投稿: | 2009年7月30日 (木) 19:26

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