『築城せよ!』
2作目の『サンシャイン・クリーニング』狙いで、あまり期待してなかった(近々までパスに入っていた)『築城せよ!』だったが、現在に蘇った武将の指揮のもとで、なんと段ボールで立派な城を造ってしまうという、奇抜で、ユニークな展開が、なんとも面白かった。
愛知県郊外のとある過疎の町。町長の場当たり政策で、高速道路を通したものの逆にスールされるだけで、かっての旧宿場町はますます錆びるばかり。昔ながら民芸品以外、これといった産業もない。それではと、城跡に戦国時代の城を再建しにようという大学教授や棟梁たちの町民グループと、その跡地に工場誘致を企む野心家の町長一派が対立していた。現地説明会のその日、ひょんな成り行きで、遺跡から400年前の戦国武将の霊が蘇った。そして、落ちこぼれの公務員(片岡愛之助)に乗り移ってしまうのだ。役場では、まったくうだつのあがらない彼が、築城途上で無念の死をとげた武将となって、「築城せよ!」と住民に命じるのだった。
その後は、脇を固める芸他者の面々のコミカルなすったもんだがあるものの、この城主、なかなか立派なのだ。築城に固守するあまり、一族郎党まで巻き込んだ非業の死を遂げた経験を糧に、現代人にも適応(?)し、なんと、その材料に、段ボール!を選ぶ。これゃー、まさにホームレス大名じゃないですか。実は、彼はホームレスのアドバイスで、上辺(外見)ではなく、その中味が大切なんだとの言葉で、ほんとうに大切なものに気づき、成長していくのだった。ほほほー、ゼネコン中心にした旧来の箱モノ行政への皮肉やね。
家臣の武将の霊にとりつかれた棟梁に変わって、大学で建築を学ぶその一人娘(海老瀬はな)を棟梁に、住民たちの前代未聞の築城計画が開始した。そこに、築城を妨害しよとうする町長の企みと対立しながら、果たして天守閣に鯱は掲げられるのか。
それにしても、段ボールで築城される城は、なんとも見事で、興味津々。
しかし、この映画では、ここがうまく描かれないのが残念だ。実際の製作にも、いろいろと苦労があっただろう。その現実を踏まえたプロセスを、もっと丁寧に描いていたならば、数段面白いものになっのではないか。築城までの無駄話が多くて、そこからがあまりにトントンと進みすぎて、段ボール集め以外になんの苦労もなく、あっというまに一致団結し、完成するあたりは、なんともリアリティに欠ける。
しかも、大学生(ある大学の記念事業で製作されている)のエキストラが多数参加するからではないが、命懸けの築城というより、ほとんど文化祭の巨大モュニメント作成のノリである。ぼく個人の思い出だが、高校のある年の文化祭でペガサスの像を、最後は深夜までかかって作成。ついに完成した時の、一体感や達成感を思い出したが、映像のノリもその程度の安っぼさを感じてしまったのが、なんとも残念。それというのも、作成のプロセスの具体例が飛んでいるからだ。
もうひとつの映画の魅力は、城主役の異色の歌舞伎俳優、片岡愛之助の堂々たる古風な風格だろう。これがなんともいいのだ。堂々と「築城せよ!」と命じられると、みんな「ハハー」とひれ伏すだけの風格がある。また、初めて見たが、ヒロインの海老瀬はなもナチュラルな女子大学生を演じていて、悪くなかった。
堂々たる戦国武将の口を通し、現在の行政や政治が抱えている、場当たり的政策の安っぽさや、過疎の実態である住民の孤立化などの問題に対して、忘れ去っられたすばらしさがあるのだよとの異色の提示がなされている。ちなみに、石垣を発砲スチロールで作られた25Mのお城に使われた段ボール、その数なんと1万2000個! といわれても、まったくピンときませんが…。
愛知県と、豊田市その周辺の市町村が、全面協力しておりますが、その意味では、段ボール城映画で、町おこしは成功だったんじゃないかなー。
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