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『愛を読むひと』

 『愛を読むひと』を観た。

Img_6100  甘いタイトル、男子高校生と40歳を前にした年上の女性との20歳以上離れた禁断の恋、そして朗読される小説群…。この程度の予備知識しかなかったので、かなりメロな女性映画だろうと甘く見ていた。ただ、ケイト・ウィンスレットにオスカー(主演女優賞)をもたらし、作品賞にもノミネートされているのだからと、食わず嫌いせずに鑑賞。でも、本命は、2本目の『レスラー』だったので、ちょっと前座の気分だったが、これは収穫大。

 冒頭、中年の男(レイフ・ファインズ)が、同居中の女性と小さな諍いを起こす。彼はこれから別れて暮らすひとり娘に会いにいくのだという。路面で電車を眺める彼。

 それは、若き日のある年上の女との出会いの場面だった。

 物語の前半1/3は、なんとなく予想どおりの展開だ。ケイト・ウィンスレットの、やや薹が立った感が、15歳の若い肉体と絡んで、かなりエロい。職業は、路面電車の車掌。制服の着こなしひとつにも、規律ある性格が窺える。でも、この年上の彼女には陰がある。明らかに人に言えない秘密があることは分かる。彼も、単に年上の女性の魅力だけでなく、ミステリアスな雰囲気にも引かれたのだろう。その陰がかなり気になる。

  そして、彼女が、この若い男に望みことは、彼の肉声での小説、物語の朗読だ。肉体的な関係よりも、それが第一であるかのようだ。

 ある日、二人は楽しいサイクリングに出かける。母と子で間違えられたレストランで、そして子供たちの無垢なコーラスに懺悔に似た涙を流す教会で、彼女の秘密の伏線が引かれていくのだか、二人の至福の時である。

 そして、「何故、ドイツなの?」と疑問があった。米国では字幕付の映画は人気がない。ハリウッド映画は、三国志だろうが、ダライ・ラマの実話だろうが、すべて英語で進行する。もちろん、これもそうだ。「ドイツ語で読んでみて」とヒロインにせがまれて、彼が英語で朗読する場面がある。まあ、ぼくにはどちらの言葉も分からんのだが、なんとなく不自然だ。もし単なる禁断の恋ものなら、舞台はアメリカでもイギリスでもいいじゃというわけだ。

 でも、そこに深い意味があった。彼女の陰のある秘密も、終戦後のドイツが舞台でなくては成り立たない話なのだ。

 物語の中盤、1/3は、予想もしていなかった展開を経る。

 ここからは徐々にネタバレになので、要注意ね。

 たったひと夏の甘く情事は、突然の終わりを告げた。彼女の突然の失踪。(実は、車掌勤務から事務系への栄転が原因だということが、後のわかる)

 そして、8年後、法科の大学に進んだ彼が、予想外の場所で、彼女の名前を耳にする。授業で傍聴した法廷の被告人のひとりとして彼女が立っているのだ。実は、戦時中、ナチ親衛隊として、ユダヤ人強制収容場の看守だったという、衝撃の事実だった。それは、貧しさがゆえの、生活のための職業だった。しかし、戦後、そこでの不幸にしておこった残虐行為の責任を一身に問われて、彼女は被告席にある。

 アウシュヴィッツ収容所跡に彼が立つ映像が挟まれる。明らかに、彼女は加害者である。不幸なユダヤ人の大量虐殺の事故現場にも立ち会ってしまう。一方で、彼女もまた、生活をかけ、無知なるもの、無学なものが、上官に指示された命令を忖度し、その範囲での責任を果たしたことが、現在、戦争犯罪として問われていくのである。

 まさに、「さるべき業縁もよおさば、いかなるふるまいもすべき」身なのである。  

 時に、ユダヤの子供たちにもやさしく接し、自分の寝室で朗読をさせていた彼女。その責任者ではなく、幇助(ほうじょ)者にすぎなかったのだか、しかし、絶対に守りたい小さなブライドのために、すべての罪を引き掛けることになる。そこまでする必要があった、彼女の決して誰にも知られたくない秘密とは何か。

 突然、彼の脳裏に、彼女との思い出がフラッシュバックする。そして彼にも隠していた彼女の秘密が一瞬にして分かるのだ。彼には、彼女の量刑を軽減する確かな証拠が分かる。

 しかし、彼には、彼女にそれを告げる勇気がなかった。

 結局、無期懲役の実刑。

 そして、物語のラスト1/3は、思わぬ形で始まり、終焉し、そしてまた新たに始まっていく。

 数年後、服役中の彼女の元に、突然、いまや弁護士となって活躍する彼からの思いがけないプレゼントが届く。

 それは、彼自身の贖罪でもあるかのような、肉声の朗読テープであった。

 決して、現実に再会することはないが、壁を隔てた、テープだけつながる二人。

 彼女は、そのことで勇気づけられ、成長し、学び、立ち直っていくのだが…。

 しかし、現実が迫ったとき、そのことで彼女の上に、最大の悲劇をもたらすことになる。でも、ここまで見て来ると、彼女の選択は予想がついた。

 結局、彼がすべてを受け入れ、やっと肉親とも向き合う決意をするのは、その後だ。それにしても、大きな犠牲の上にあったのだなー。

 そうか、一見、無知な彼女の成長物語に目を奪われたけれど、実は年上の女性の大きな犠牲によって、ひとりの男の子が、ほんとうの意味でやっと大人になっていく物語だったのかもしれないなー。

 

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