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『花の生涯~梅蘭芳~』

 チェン・カイコー監督の『花の生涯 梅蘭芳』を見る。特別興行で、ファーストディーも割引対象にならず、2,000円。チェン・カイコーは好きだったが、巨匠になって、俄然、つまらなくなった。悪いがこの値段では見に行く気になれないでいた。ところが、劇場が変わり、扱いは同じものの、会員だけ通常の1,000円でいいというのだ。あいかわらず安いのものには弱い。

Hanashogai_01_2    伝説的な京劇の女形の第一人者、梅蘭芳(メイランファン)の半生を実話に基づいて描く、いわば伝記映画だ。華麗な京劇の世界が堪能出来る。
 時代は、清朝末期から中華民国への激動の変革期。たびたび京劇のパトロンだったろう西太后の名がキーワードのように登場する、そんな時代だ。天才女形の梅蘭芳は、京劇の伝統に、新しい作風や思想を取り入れ、時代の寵児となる。まさに、時代の勝利である。国内はもとより、アメリカ興行も大成功を收め、絶頂期にさしかかっていた。しかし、日中戦争が激化するなかで、彼の苦悩は深くなっていく…。Eefc8033db52d3dff2d7aea16d72b731

 それにしても、華麗な舞台の映像美、京 劇の世界の一端は、充分に堪能できた。これだけでも、確かに価値はある。特に青年時代の彼の舞台での所作や歌の姿は、ほんとうに華麗そのもので、美しい!

 しかし、華麗な映像に比べると、どうも話が薄っぺらい気がしてならなかった。人物の描き方が中途半端というか、心理描写が表層的すぎるのだ。彼にかかわる人々がもの分かりが良い、立派な人ばかり登場する。敵まで彼の理解者である。たとえば、伝統を重んじる京劇の束縛に新風を巻き込もうと、偉大な師匠と舞台での対決し圧勝するが、破れた伝統派の師匠も至芸の名人で、最後は人格的にもすばらしい人物として描かれる。彼に京劇の未来を、役者の地位向上を託して絶命するのだ。また、侵略の果てに彼を利用しようとする日本軍の担当者までが、彼の熱烈な理解者だったりする。

 日頃はギスギスしあう妻も、彼が唯一心を許したチャンツィイー演じる愛人(こちらは男役専門の花形スター)との別れにしてもそうだ。そして彼の舞台に一目惚れし、司法長官の地位まで捨てて、義兄弟の契りを結び、彼の後ろ楯として、公私に最大の影響をあたえる男もまた、自らの人生を投影して彼に一生を捧げる師との関係もそうだ。平板で、どこか面白みにかける。

 チェン・カイコーには、同じ京劇を扱った傑作『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』という完成度の高い作品がある。わが家では夫婦ともども大好きの1本。宣伝では、その『覇王別姫』を超える最高傑作とあったが、残念ながらまったくそうは思えない。人間の業といってもいい愛憎違順しあってもつれあうような愛と、悲しみ、憂いには、遠く及ばないからだ。

 実話にもとづく、実在のスターによる京劇の改革や海外公演の成功などの功績(「覇王別姫」も彼の創作作品だ)ばかりが目立ち、常に、成功、成功の連続。しかも、周囲の人物だけでなく、彼も常に穏やかで、円満で、品格のある人格者として描かれ(確かに孤独や小心者の面もあるが表面だけ)、凡庸な感じがしてならない。

 実際、映画は、戦争のために疎開先から、北京に戻った彼を、7万人の群衆が迎えたというところで終わるのだが、その後の彼は、共産党の支配の中でも、第一人者として君臨しつづけ、海外公演も好評で、世界の芸術家や役者に影響を与え、政治的にも全国人民代表にも選出されている。しかも文化大革命の悲劇を知らずに没しているという。

 なにか、普通の映画評のようになったなー。

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