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『おくりびと』だけじゃない!

 07年が、ホロコースト物で『ヒトラーの贋札』。そして、08年が東ドイツ諜報活動を描いた『善き人のためのソナタ』東ドイツの”シュタージ”という体制支配の中枢を担っていた強力な国民環視の非人間的組織と、芸術、ひいては人間性の相剋を描いた佳作。これはいい)と、わりと歴史的な社会派ドラマが強かった。それが、前評判を覆し、『おくりびと』がアカデミー賞の外国語作品賞を受賞した。

 たいしたものだなー。

 別に受賞したことではない。

 いつものことながら、外国で箔がつくと国内の評価がうなぎのぼりになる、その過熱ぶりに驚いているのだ。もう1ケ月近くになるのに、先日の京都新聞の一面下のコラムにも、また2面の山折哲雄氏のエッセイにも、この話題に触れられている。山折さんは、青木新門さんついての記事だった。

 ぼくのこの小さなブログだってそうだ。『おくりびと』と『納棺夫日記』についてのエントリーをしているので、そのフレーズで検索されるアクセス数が、ずっと急上昇中。「納豆国の美白いのち姫さん」からも、「観てきました」との報告と、エントリーを読んだら「なーるほどと思った」とのことだ。

 でも、『おくりびと』と『ポニョ』だけが、日本映画じゃない。
 
特に昨年は、ぼくが「これはいいなー」と思ったものと、世間や評論家の評価とが、合致した年だった。

 『ぐるりのこと。』『実録・連合赤軍~あさま山荘への道程~』『闇の子供たち』が、ぼくのベスト3。偶然、京都シネマでみたものばかり。他にも、歩いても、歩いても』『休暇』『クライマーズ.ハイ』などもよかった。以上はここにエントリーしている。
 その他、触れることは出来なかったけれど、

 エリートサラリーマンのリストラを契機に、もともとあった家族の亀裂、不協和音が頂点に達するまでの緊迫感と、予想外の外部からの侵入によって急展開する「アレレレ」感のある後半の対比が面白い、黒沢清監督の『トウキョウソナタ』

 『東南角部屋二階の女』は、取り壊し寸前のボロアポートを舞台に、偶然集まった若い男女の3名。宙ぶらりんの冴えない3人に、認知症で沈黙をまもる祖父と、アパートのオーナーで彼の世話する上品な初老の女性との深い想い交差する、ぬくもりのある作品。

Ichiban1  さすがは今村昌平のDNDが生きている『世界で一番美しい夜』は、「エロと愛が世界を救うのだ!」というオリジナリティー溢れる力強い作品。一見、かなりばかばかしいようで、でもしっかり踏みとどまって、独自のエネルギーを発している。多少好き嫌いあるかも。

 蒼井優がぴったりはまっていた『百万円と苦虫女』自分探しって、結局、自分が嫌いで受けいれずに逃げてるんだよね。海へ、山へ、そして町へと。探そうが、逃げようが、実はどこに行こうが決して隠れも、見失いもできないですがね。タナダユキさんいいです。ラストの解釈は? ネタバレになるのでここまで。

 あと、ぼくの傾向からみると保守的作品だけれど『明日への遺言』も悪くはなかった。東京裁判を主舞台にした動きのない枠で、藤田まことが毅然とした岡田資(たすく)中将を演じている。法戦か!

 ドキュメンタリーでは、世間を騒がした『靖国』には触れているが、Flowers_image

 他にも、ベトナム戦争での枯葉剤散布の罪を取り上げた花はどこへいった』は、単なる一過性の戦争の悲惨さに留まらず、次世代、また孫世代へと続く恐ろしさと同時に、当事者(加害者)たちの無責任、無自覚な姿勢がまざまさと知らされる。これはヒロシマやナガサキの原爆被害と同じ構図だ。夫の死という私的な悲劇が、人類共通の深いテーマへと昇華されていくようだ。

Nakba  『パレスチナ1948・NAKBA』)イスラエルが建国され、パレスチナ難民が多数発生した。この事件をパレスチナ人は、NAKBA(ナバク・大惨事)と呼んでいる。この年、400以上ものパレスチナ人の村々が消滅、廃墟となってしまう。そして、いまなお、パレスチナ人が暮らす場所は破壊され、追放する動きは続いているのだという。若き日の写真家の監督自らが、イスラエルの社会主義的な共同体キブツに傾倒してかの地で働く中で不思議な光景を目にする。そして、「ホロコーストを経験したユダヤ人のキブツが、パレスチナ人の村を破壊した土地に建てられている」……。その事実に衝撃を受けた彼は、失われた村の住民を捜し始めるのだが、それは、現在も続いている「破壊と追放の歴史」を辿る旅でもある。日本人にはもっとも無関心な問題を、日本人が取り上げている。

   堅い社会派の3本が並んだので、最後は『タカダワタル的ゼロ』で。
 オフビートで、ウィットに富んだ魅力に加えて、鋭く本質を見抜いた風刺が効いている高田渡を取り上げた『タカダワタル的』に、その2があるなんて思ってもみなかった。「2」ではなくて、「ゼロ」になっているところがいい。同じ舞台に立っていた泉谷しげるが、高田の歌を聴きながら、流れる涙が押さえるために天を仰いでいるシーンがいい。
 おかげで、高田渡をよく聞いた。『ごあいさつ』、『系図』、『石』のいわゆるベルウッドの初期三部作が好きだ
 そういえば、最近、三条堺町のイノダでコーヒーを飲むことはなくなったなー。

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コメント

『〜あさま山荘〜』……DVDで見ました(サンプル版ですが)……。いやあ、凄絶ですね。私が物心ついた頃のテレビ生中継は、山荘をぶちこわす鉄球でした。あのころは「何やってんの?」で、学生時代にアウトラインをおぼろげながらつかんでもピンと来なかったのですが、時系列で見るといやはやなんとも……。ソ連崩壊以前は冷静に振り返られなかったのが、40年近く経ってようやくほぼそのままの形で再現できたんですね。重信メイさんも見たのでしょうか? どこかにコメントがあれば読みたいのですが。そういえば、学生時代の某会の合宿もほとんどが自己総括の嵐でした。自分に引き寄せることはホントに大切ですよね……しみじみ。

投稿: はらほろひれはれ | 2009年3月27日 (金) 00:17

 映画を見られたある同人の方が、「いや、分級座談会みたい」とボツリと…。「いくらなんでもあなたね」と苦笑いです。

投稿: かりもん | 2009年3月29日 (日) 00:10

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