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『ラースとその彼女』

  新春1本目は、年末にパスして楽しみしていた、『ラースと、その彼女』

Lars_01  もし、兄弟や家族に、「インターネットで出会った彼女を紹介する」と現れた相手が、リアルドールだったら、あなたならどうする? 日本も、ハリウッドも、最近は、名作や旧作のリメイクや、ヒットした小説やアニメの原作ものが多い中で、こんなユニークなオリジナルの設定で物語は始まる。でも、けっしてふざけたコメディではない。ユーモアのセンスをもちながら、少数者への暖かい眼差しが、善意あふれる小さな町の人々の姿を通して伝って来る、アカデミー賞オリジナル脚本賞にもノミネートされた佳作だ。

 舞台は、アメリカの北西部の、ごくごく平凡な小さな田舎町。冬には一面の雪景色となる。小さなコミュニティーでこそ成り立つ、温かなヒューマンドラマだ。雪に覆われた景色も、けっして寒々しく、じんわりと、ほのかなぬくものが伝わっていくる。町の中心には、教会がある。信仰の場は、精神的な支柱であり、スモール・タウンの人達の大切なコミニケーションの場だ。

 主人公、ラース(ライアン・ゴズリング)は、若い女性とのコミニケーションが極端に苦手だという以外(別に同性愛者でもない)、仕事も普通にこなし、心優しく、純粋で、町の人達にも暖かく迎えられている独身男性。

 どうやら、彼には母の死と彼の誕生に関わる深い傷を追い、家族との深い葛藤を抱えているのだ。いまは、兄(ポール・シュナイダー)と、その妻カリン(エミリー・モーティマー)が暮らす実家敷地のガレージで、ひっそりひとり暮らし。義姉は彼の閉ざされた態度を開かそうと、親切に関わるが、逆に、彼女のお腹が大きくなればなるほど、ラースの態度は不自然になっていく。そして、職場では、彼に行為を寄せる積極的な女性が現れるが、彼はうまくコミニケーションがとれない。

 そんな日、インターネットで知り合った恋人を夕食に招待するという。喜ぶ兄夫婦の前に現れたのは、等身大のリアルドールと、その人形を生きた女性のように扱い、嬉々として話しかける彼の姿。人形の名は、ブアンカ、ブラジルとデンマークのハーフで、宣教師だという。宗教的に敬虔な彼女とは、結婚するまでは関係を結すばず、ベッドは別にするので、彼女を泊めてほしいと言い出したのだ。とうとう弟は、おかしくなった。衝撃を受ける兄夫婦。ヘタすりゃ、ここからハチャメチャな展開になりがちだけど、逆に、少数者や異質なものが現れることで、平均的なごく普通の人々の寛容力が試されることになる。

 彼にリアルドールのことを教えた同僚は、アニメフィギィアに大金をかけている。隣の女性は、ぬいぐるみが命で、いつもそのことで、ふたりは本気でケンカしている。最初、彼を冒涜する教会の女性は、犬に服を着せ、わが子のように話しかけている…。でもね、リアルな人形を愛するのはちょっとね、変態ということなの? そもそも、「ふつう」ってなんなの?という素朴な疑問も浮かび上がる。

 そして、彼の態度を理解し、寄り添いながら、その心の傷をごく普通に包み込む女医。戸惑いながらも、彼の態度(彼とその彼女)を受け入れていく兄夫婦。隠していた、弟への贖罪に気づき、「いつ、大人になったと思う」という弟の素朴な問いに、真剣に答える兄貴も、自暴自棄に荒れる彼に、かすれ声で本気で諭す義姉も、共にいい味が出ていた。そして、リアルドールを連れ歩く、変人、変質者、きわものを扱う見る態度から、彼とビアンカを受けいれ、逆に彼女に癒され、ほんとうに大切なものは何かを知らぬ間に気付いてく町の人々。 

 物語は、おもわぬ方向に、まさに「ものがたる」べきプロセスを大切に経ながら展開していく。そのおさまり方は、あまりにもうまく行き過ぎなんだけれど、まあ大目に見よう。
 ラストのシーンで、「ラースとその彼女」というタイトルが、グーんと生きていく。原題は、「Lars and the real girl」-なるほどね。ラスト、彼の顔つきがキリッと自信に溢れ、あまりにも違いすぎますぞー。

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コメント

はぁ~。一気に読んでしまいました。良い小説を読んでいるみたいです。ひきつけられますね~ すごく観たくなりました。

投稿: さち | 2009年1月10日 (土) 00:49

この作品がかりもん先生のブログに載せられるのを待っていました
この辺では上映されていないのですがそれでも見たい!と思っています。来週にでも「東京さいぐだ~」

投稿: 元「常連」 | 2009年1月10日 (土) 14:24

さちさん>誉めてもらうとうれしいなー。酔っぱらってなかったよね。

二代目「メイ」さんじゃなかった「元常連」さん。完全に、「疑」と「明」の人だ思ってたよ。

 当然、映画のクライマックスというか、最後の部分には、触れてませんのでご安心を。やっぱり、ネタバレすると面白くないものね。でも、ここがいちばん難しいところやね。だった、そこからが展開があって面白いのだけれど、礼儀としてスルーせんとなー。

投稿: かりもん | 2009年1月10日 (土) 22:31

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