『いま ここにある風景』
朝いちで、京都シネマへ。『いま ここにある風景』と告げると、窓口のスタッフが、「今日は1本だけですか」と聞かれた。午後から予定が入っていたので、残念ながら1本だけです。
カナダの写真家エドワード・バーティンスキーは、産業廃棄物のある風景や、採掘されつくした鉱山、乱開発による環境破壊の現場など 、人類の反映の裏にある、負の遺産ともいうべきものにカメラを向けている。ところが、ほんらいは醜悪であるものが、彼の手にかかると美しいアートになっているから不思議だ。しかも、単なるごまかしの美しさではなく、その美の背後にある異様さや不気味さも同時に感じさせる。まさに、百聞は一見にしかずで、凡庸な百の言葉よりも、一枚の写真が、雄弁にその本質を語ることもあるのだ。
本作は、彼が、「世界の工場」として、人類史上、最速の経済発展を遂げ、急変している中国を中心に、その歪な風景を撮影する姿を捉えたドキメンターリーだ。まさに、映し出される数々の風景の、その巨大なスケールと、異様さに圧倒させられた。
冒頭、工場内のラインをカメラが平行移動で写し出すシーンが始まる。さまざまなラインに大勢の黄色のユニフォーム(そうでない人もいるが)並び働いている。別に普通の工場風景。でも、ここでビックリしたのは、その何列も並び工場のラインが、いつまでも終わらずに、延々とつづくことだ。たぶん10分近く、歩行スピードほどで移動して長回し撮影されるのだけれども、このワンフロワーの工場は、どれだけ大きさなのか。そして、ここにどれだけの人が働いているのだろうも想像がつかない規模なのだ。やがて建物の外見が明らかになるが、それを一枚の写真で見せるのもすごい。しかも、その敷地内には同様の建築物が延々と並んでいる。もうはるか向こうがかすむかのような風景が続き、たぶん何万というおびただしい人達が、それぞれの班の朝礼のためにどんどん集結しているのだ。少し前に、ロイ・アンダソーンのローテクの物量、人海戦術でせまる映画(http://karimon.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post_472b.html)でも、延々と同じ光景が続くシーンがあったけれど、現実は、そんな非ではないほどの巨大さ、果てし無さだ。世界の工場のほんのひとつの実体。大量生産、大量生産というけれど、これは超大量生産だなー。
もちろん、そのために、原材料の資源が必要になる。中国の国内外から大量の原材料のために、さまざまな自然が破壊されていく。
当然、その資源を運ぶ船がある。巨大タンカーも必要だ。タンカーはリサイクルの優等生だという。バングラデシュのある浜では、人力、手作業で、超巨大タンカーの解体作業がおこなわれるが、このシーンもなんともすさまじい。作業時に出るであろう有害物質への対処などもない。未成年の子供たちが、からだを原油に沈ませながら、タンカーの残り原油を素手でかきだしているのだ。しかも、その日給も恐ろしく安い。
また、中国でも、一握りの貴重な資源のために、大量の有害物質を含む廃棄物の山。その山の劣悪な環境の中で、素手で廃棄物を分類して、非常な危険な作業を行なっている。みんなカメラにニコニしている。子供たちも楽しいそうに有害廃棄物で遊んでいる。その危険な作業が、土壌や水質を深く汚染してるのだが、そのことの認識がまったく伝えられていなように見えるのが、なんとも不気味。
超大量生産され、超大量消費され、超大量廃棄されていく。先日、ぼくが「安い、安い」と喜んでかった家電量販店の品物そのものなのだ。そして、ぼくたちは、「リサイクルされている」製品ときいただけで、エコになった気分だけれども、その実体は、環境破壊であり、その地域の人達を蝕むしかない。すべて貧しい国の、弱者に、嫌なものを押しつけているだけだなのだ。
中国の三峡ダム建設のために沈む町の、まるで爆撃後のような荒廃して光景も異様だ。金をもらって、自分たちの住んでいた町を、自らで破壊しているのだという。そこで働く人達の環境も、また賃金も抑圧されている。まさに、ジャージャンクの『長江哀歌』だ。→http://karimon.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_b33c.html
一方で、上海のように超スピードで超近代化、加速する都市化、メトロポリスの光と陰にも、カメラが迫っていく。
エドワード・バーティンスキーは言っている。
「ぼくは自分の仕事を、もっと政治化すべきだと考えたこともあった。しかし声高に訴えれば、人々の反応は単に賛成や反対をみせるだろう。だから言葉ではなく、ただ写真を見せる。そうすることて、見えなかった何か、違う世界うを見せられると思うから。
人間は今、居心地の悪い場所に座っている。一度、手に入れたものを手放すことができす、同時に、そのことが問題を深刻化ささせていのもと知っているからだ。
良いとか悪いとかの問題じゃない。全く新しい発想が必要なんだ」と。
そうだなー。みんな仏説を聞くしかないんだよなー
| 固定リンク
「映画(アメリカ・その他)」カテゴリの記事
- 『サマー・オブ・ソウル』~あるいは革命がテレビで放送されなかった時~(2021.10.01)
- 映画『ライトハウス』(2021.07.24)
- 『FREE SOLO』(2020.06.23)
- 今年も206本(2019.12.31)
- 『草間彌生 ∞ infinity』(2019.12.30)
コメント