『スウェーディッシュ・ラブ・ストリーー』『散歩する惑星』そして『愛おしい隣人』~ロイ・アンダーソンの世界
初めてスウェーデンの巨匠(?)、ロイ・アンダーソンの映画を観た。しかも3日間で3本。
なんとも独特の世界観の持ち主、自分を曲げず、商業的、興行的な評価に媚びない姿勢は立派だ。だけど、この人との波長が会わない人は、退屈な映画だろう。ゆったりした時間が流れる。小さなエピソードが次々と現れて来るだけで、起承転結のストーリーなどはない。ぼくも、3本とも、一時意識をなくし、「ハッ」と目が覚めた。それでも、悪い気はしない。不思議な感覚がする。コメディーといっても、ドタバタでも、会話で笑わせるのでもない。とてもユル~イ。どこにでもある光景が小さくつながり、どこか1本ネジが抜けているシーンが続出する。ちょっとほろ苦く、悲しく、そしておかしく、人間味が溢れている。相手がちょっと変わった人であっても、その人を観るまなざしが暖かいのである。
まずは、北欧版『小さな恋のメロディー』といわれる、『スウェーディシュ・ラブ・ストーリー』 。15歳の少年と、14歳の少女の初々しく、幼く、危なっかしい恋を綴る。印象的なテーマ音楽が効果的に使われ、二人の間に、会話は少ない。身体的な表現と、映像と音楽が、変わって伝える。接近しそうでうまく表現できず、ぶつかるように近づき、また不器用に離れたりと、頭で理屈や言葉を考えたりはしない。観る方も、情感でこの雰囲気を味わっていけばいいのだろう。少年は、けっして男前ではないけれど、ナィーブな揺れる表情が、ある種かわいい。一方の少女は、金髪に、すらっと伸びた足、大人ぽくい表情と、幼さなさが同居する日本人の北欧の美少女のイメージの典型的だ。
でも、これだけなら、単にきれい、きれいな青春恋愛ものなんだけれども、どうも周りの家族や大人たちが、ちょっとヘンなところがいい。家族ぐるみの付き合いになり、両家でパーティーが開かれるが、この顛末はなんとも奇妙で、なんか?だった。●●●●
次は構想20年、撮影4年という『散歩する惑星』。 不条理なへんな出来事が、次々と起こる。大量解雇で、無遅刻、無欠席が自慢の男が解雇される。上司の足にしがみつくも、ズルズルと引きづらていく。道に迷い、知らぬ人々に殴られる。商売がうまくいかず放火するが、なかなかその後がうまくいかない。切断マジックで腹を斬られる男と、とんまなマジシャン。とぼとぼと荷造りをして逃げていく。かなり悲劇な出来事が起こる。とてもユルーイのに、けっこう毒が混じっている。たとえば、妙な会議にしてもそうだ。水晶占いで決めて、隣のビルが動きだしたと、みんなパニックになって逃げだす。ミレニアムなので、十字架を商売にしようとする。商談会もへん。不良品のキリスト像が、片方だけ釘がつれて、ブラブラ揺れている。面白いが、「いいのか、こんなことして」と思っていたら、最後は売れ残った十字架が、乱暴に廃棄され、車で踏みつける。神を冒涜すると、バッシングされんのかとドキドキしちゃった。そして、空港に殺到する人達。どこに行くのか、何百もの人が、ものすごい荷物をもって、脱出するのである。徹底して同じようなものが並ぶセットと、人海戦術。一切、CGなしだそうで、何百人という人を妙なしぐさをしている。それをワンカメラ、ワンカットで撮っているが、カメラが寄らないから、遥か向こうの人達は、マメ粒みたいなものだ。それでも、手抜きはなし。
チラシに、ローテク巨編とあった。「ローテクってなーに?」と思っていたら、反対語なら、みんな知っている、「ハイテク」である。なーるほどね。Highならぬ、Lowですか。●●●●
そして、最新作の『愛おしい隣人』。(英語題は、You, The Living) 『散歩する惑星』のおなじ匂いのする映画だけれども、どこかより温かさを感じた。
人間の営みが続く以上、その数だけ物語は生まれる。しかもその多くが、どうしようもない悲劇なのである。みんな、ほんとうにツイていない。みんな、「誰もわたしを理解してくれない」と歎いている。でも、そんな悲劇も、端から他人が見ると、まるで喜劇なのだ。そのユーモアを交えた語り口は、どこか人間味溢れ暖かい。やはり、 散文詩のように、小さなへんなエピソードが散りばめられていく。名もなき小市民たちは、みんなほんとうの素人俳優。彼らが織りなす、悲喜こもごもな日常が、ユーモアを交え、ゆる~く、ゆる~く切り取っていく。
それにしても、こちらもいろいろな人達が出でくる。アパートの一室。寝ていた男が、空爆を受けた悪夢でソファー.から落ちる。公園のカップルは、女がヒスを起こし別れ話の最中。小学校の教師とカーペット店販売員は夫婦喧嘩。精神科医は、患者の愚痴を聞かされることに我慢出来なくなるが、彼の独白も面白い。夫婦のセックスの最中、投資で財産を失ったことを歎くく男。その上にはデブの妻がただ喘ぎまくる。犬を裏返しにして、引っ張っていく男。見知らぬ家のパーティで、貴重な食器を乗せたテーブルクロスの引き抜きを大失敗すると、なんとテーブルには、鉤十字の紋章があられる。彼は電気椅子で死刑になる夢をみ男。夢か、現実か、覚醒と夢との境界などないかのような光景が続く。
ロックシンガーに憧れる女が、夢の中で、彼と結婚式をあげる。新居が列車になって、駅につく。窓辺に見知らぬ人達が現れて、花嫁に歓声をあげ、「おめでとう、おめでとう」と、口々に見知らぬ人達の祝福を受ける(チラシのシーンね)。別に泣けるところじゃないの、なせかこのシーンで、その温かさに胸がジーンとなった。(ぼくもみんなに祝福されてるんだものなー)、しかし、これも夢なのである。みんな寂しそうなバー。今夜も、ラスト・オーダーが近づく。バーテンがベルを鳴らしながら叫び、「ラスト・オーダー。でも、明日があるよさ」と。その店に彼女も立っていた。
パンフレットもなかなかおしゃれだった。タイトルの小窓をあけると、女が「Aaaaaaa」と叫んでおります。
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