『つぐない』
『つぐない』 これはおススメですね。
文芸作品の映画化で、身分の違いを超えた恋愛が、戦争に依って引き裂かれる女性向きメロドラマだと思っていた。ちょっと、宣伝コピーが臭かったので、見るのをためらったけれど、予告編をみるかぎり、どうもそれだけではないような気配もある。「つぐない」のタイトルも気になる。結局、この気配を信じて、見てよかった一本だ。
ラスト、どんでん返しがある。この仕掛けはなかなか見事だ。いわば映画そのものが、箱の中に、実はもうひとつ箱が入っている、入れ子状の構造になっていたのだ。しかも、冒頭からのシーンを思い出すと、そのことを示す、いくつかの伏線が用意されていることに気づく。タイプライターの「バチバチ」という音がいかにも効果的で、物語の重要な伏線になっていたのが、見終わると分かる。なかなかうまい。そして、同じシーンを、異なった視点から見せることで、物事に深みが出て来る。下手をすると、これは見るものを煩わしくさせかねないれど、本作に限ってはここがポイントになる。音楽や擬音の効果もそうだが、丁寧で、うつくしい映像や、引き上げる港の戦場のシーンも壮大だった。
ネタバレしない程度の物語はこうである。
1930年代、第二次大戦前のイギリスの上流家庭の屋敷が、最初の舞台にある。
主な登場人物は3名。お屋敷の令嬢にして、才色兼備のセシリア(キーラ・ナイトレイ)、小説家志望のませた13歳の妹、ブライオニー。使用人の息子ながら、その理知さが評価されて、彼女と同じ名門大学出身で、さらに医学をめざすロビー(ジェームズ・マカヴォイ)。当初は、身分の違いなどで反発していた二人が、本心に気づき結ばれていく。そのとき、あるスキャンダルな事件がきっかけにして、ブライオニーのウソが、取り返しの付かない事態へと転がっていく…。
映画はこの3人のそれぞれの視点を通して、時には過去に遡り、または、同じ出来事を異なる視点から見せながら、ラストへつながっていくのだ。
屈折した心情による誤解からのウソ(その時の彼女には、それが真実だったのかもしれない)が、事の重大さがわからぬほどの幼児性から出たものでも、他の人生を大きく狂わせ、悲劇へと導くことになってしまう。一方で、そのことで人生の利得を得る人も誕生した。どうすればその過ちをつぐなうことができるのか。
実は、そんなことは不可のである。過去はかえることはできない。だから、その重荷をただひとりで背負って生きる人生もある。映画では直接触れらず、想像するしかない、彼女の青年期以降の人生のありよう、罪の意識と苦しみこそが、この映画の重さなのだう。
でも、ここのところの解釈や評価はさまざまだなー。これじゃ、結局のところ、自分のなぐさめにしかならないんじゃないかなー。一端犯した罪は、どうころんでも、取り返しがつかず、引受ける以外にないということだなー。
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