『牡牛座 ~レーニンの肖像~』
ロシアの映像作家、アレクサンドル=ソクローフの特集上映があった。独特の世界観、美意識をもった映像作家だ。彼の作品は、旧ソ連時代、すべて上映禁止の処分をうけていたという。昨年、昭和天皇を描いた『太陽』が日本でも上映されて話題となったこともあって、このところ特集が多い(ここでも取り上げたが、昨年の時は、『ファザーサン』など見た)。『太陽』の前に、『モレク神』でヒットラーを、ついでこの『牡牛座』では、最晩年のレーニンを取り上げているが、日本公開はまだだったようだ。
あかからわず、彼自身の世界観、映像美が全体を支配しいる。利休鼠の雨が降るのは城ヶ島だが、映像は、緑の靄ったようなくすんだ映像。最期の方に、雷雲の合間から現れた真っ青な空が美しい。
緑豊かな、郊外の豪華別荘。でも、どこか冷たげな大理石の豪邸。そこに、からだが不自由(暗殺未遂の後遺症で静養中)で、どこか回りの人達ともギクシャクしている彼がいる。側には、妻と姉という二人の年老いた女性。半身不随で、時に哀れ、時に暴君のように怒りっぽく、頑な老人が一人。「ああ、レーニンだー」。おかしな言い方だが…。当たり前のことだが、ぼくはレーニンに会ったことはなく、写真しかみたことはない。それでも、単に歴史上の実在する人物をそっくりに描くとか、物真似で似てるのでも、また役者が演技の巧みさとは別に、なにかその役者の存在そのものが、「ああ、レーニンだー」と思わされるものがあった。なんかすごいなー。その意味では、「ああ、スターリンだ」と思われる人も出て来る。ある種の身体言語ですよね。そんな意味での存在感がありあり。
例によって、ストーリーは妙で、あまり進展がない分、途中で退屈しました。映像も、静かだったし。彼のいらだちとか、不自由さ、周りとのコミニケーション不全や孤独といった身体が発するままならぬ声が、どこかから聞こえて来る気がした。そして、ラスト。彼の表情がよかったなー。
でも、ほんとうの瑣末な本題はこのあとにつづく。
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