『大いなる陰謀』
雨が多かった4月から、ここ2、3日は、初夏の陽気。日差しがまぶしい。何気ない街頭の風景だが、いっそう花も映える。自転車で二条の映画館まで25分ほど。けっこう汗ばむ。
『大いなる陰謀』というハリウッド映画。しかも大物3名の競演。おなじみのご都合主義の大作かと思って、一瞬、躊躇したけれど、なかなかの社会派ドラマだった。
アメリカは政治の季節を迎えている。大統領選挙が近いと、政治色の濃い映画が作られるのだ。これは、監督、ロバート・レッドファード。大物俳優が、ハッキリした政治的立場を表明し、候補者を積極的に支援していく。日本では、名声を得た俳優やタレントが、自らの政治や宗教を表立って明らかにすることはないし、この手の映画もあまり生まれない。
確かに、政治的な立場が鮮明なので、評価も分かれるところだけれど、知的な会話がつづく社会派ドラマだ。ハリウッド定番の派手なシーンは少ないが、名優3名のやりとり(正確に2人の対決と、1人は若造との対話)が見応えがある。もし、これをダラダラ長時間やられると鼻につくのだろうが、90分とコンパクトなのもいい。
将来の大統領候補と目される共和党の野心家議員(トム・クルーズ)が、若き日の彼を好評したベテランジャーナリスト(メリル・ストリープ)を呼び、アフガンにおける対テロ戦争の新作戦についての極秘情報をリークしている。泥沼の中東情勢を、自ら立案した作戦によって、一挙に打開をすべく少数の特殊部隊が動かす作戦だ。彼の執務室に飾られる写真や記事の数々だけでも、彼の立場を雄弁に語っている。このリベラル派と、新進気鋭の保守派の、二人の会話がなかなかスリリングなのだ。
同じころ、西海岸の大学で、リベラルな大学教授(ロバート・レッドフォード)は、最近、授業をサボっているエリート学生を呼び出す。若者の反発に、静かに、しかし激しい議論を展開していく。
そして同時刻、アフガンの高地では、議員の新作戦が攻撃が始まろうとしている。
作戦によって、敵地の直中に取り残された2人の特殊部隊員。実は、大学教授の自慢の教え子。優秀な彼らも、マイノリティーの下層出身であるが故に、彼の反対を押して、行動することを選んだのだった。
スクープを手にしたものの、放送をためらう彼女。それはかつて権力と共に、イラク戦争を支持して、ジャーナリストの責任を果たせなかった反省。そして「作戦のためには手段を選ばない」という彼の言葉に、陰謀の匂いを感じ、言いしれぬ不安感に包まれていく。彼女の涙がいい。それは無力感からか、それとも過去の過ちの反省なのか。やっぱり、メリル・ストリープはよかった。
別々の3カ所での対話や物語が進行するうちに、徐々に絡み合って、ある種、(ロバート・レッドフォードが感じる)現代のアメリカの数々の矛盾点が明らかになっていくのである。
見方をかえると、この映画自体が、プロパガンダであり、「大いなる陰謀」であるのかもしれないなー。その意味で、この邦題は、意味深だ。原題は「Lions for Lambs」(勇敢なライオンのような兵士が、ロバのような無能な指揮官の元で戦ったという、第一次体験の故事を下敷きだそうだ。ロバではなく小羊になっているが)
これは、直接、映画のメッセージじゃなったけれど、やせても枯れても、どんなに軽蔑されても、アメリカは超大国、巨人なのだ。日本なんて、政治的、軍事的にまったく幼児、いや赤ちゃんのような無力な存在だということを感じさせられる。リベラルも、ネオコンも、アメリカのことだけしか考えていないが、それでも、スケールが違うのだ。今後、このアメリカに対抗しえる脅威は、中国だけかもしれない。いつでも、日本が子供扱いされるのが、よーくわかる気がしました。でも、別に巨人になる必要はない。子供だからこそ、見えて来る視点もあるんじゃないかとなーと。
| 固定リンク
「映画(アメリカ・その他)」カテゴリの記事
- 『サマー・オブ・ソウル』~あるいは革命がテレビで放送されなかった時~(2021.10.01)
- 映画『ライトハウス』(2021.07.24)
- 『FREE SOLO』(2020.06.23)
- 今年も206本(2019.12.31)
- 『草間彌生 ∞ infinity』(2019.12.30)
コメント