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『ヒトラーの贋札』

 『ヒトラーの贋札(にせさつ)』ドイツ=オーストリア)が、今年のアカデミー外国語映画賞を受賞した。あいからず、ハリウッドではホロコーストものが強いかどうかは知らないけど、ぼくには、「ヘェー」という感じがした。別に面白くなかったわけではないけれど、受賞するほどの強い印象はなかったからだ。

Nisesatsu_01  少し異色の収容所物かもしれないが、エンターテイメント性もってあって、サスペンス風で少しドキドキさせられる。(でも、冒頭のシーンで、結果は分かっているわけですが…)

 物語はこんな感じだ。

 一流の贋札作りの天才、ユダヤ系ロシア人のソロモンが逮捕され、強制収容所に送られてくる。戦局が悪化するなか、独軍は、イギリスのポンド、米ドルの大量の贋札作りを計画する。相手国の経済混乱を狙ったのである。

 極秘の命令で、収容所の秘密施設では、優秀な技能をもったユダヤ人が集めれて来る。うまく任務が完了すれば口封じで殺されるだろうし、失敗しても命はない。ただし、仕事が順調にすすむ限りは、命が保証され、温かい食事と柔らかいベッド、音楽やピンポンも楽しめるのだ。だが、塀一枚向こう側では、ユダヤ同胞たちが地獄のような環境におかれている。生き残るためには、ナチスに協力し働かなければならない。その限りには、収容所の中でも生き残れる。だが、それは自らの家族も同胞も裏切るだけでなく、ドイツの勝利という自らの首を閉めることになりかねない。さてさて、どうする、どうする。

 まさに、ギリギリの選択だね。すぐに結果を出さなければ仲間も殺されるという恐怖もあるが、一方で、職人としてのプライドや達成感もある。ニセ紙幣が、スイスの銀行でホンモノと鑑定されるの知らせが届く、思わずナチの將校たちと、本気で喜びを分かち合ったりもしてしまうところなど、ある種の人間の悲しい性をうまく表現していた。

 もちろん、個人の内部がそうであるように、技能者たちの間でも、さまざまな葛藤が起こる。まず自分が生き抜くことを優先する者(もし非協力や反抗しても処刑され、別の技能者が呼ばれるだけ)、歓待されて積極的に協力する者、そして巧妙にサボタージューしながら非協力を貫こうとする者たちが、自らの命、仲間の命をかけて、ギリギリのところでぶつかりあうのである。

 このあたりの心理の綾は、敵味方入り乱れて、なかなかよかった。

 なかでも、冒頭とつながるラスト。カジノでさんざん豪遊し、散財したあと、静かな夜の浜辺での主人公の背中が、その彼の人生、そして心象をすべて物語っているかのようで、なかなか秀逸だと思った。ここは、味わい深い。

 まあ、こんな感じでしょうか。

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