『こころの整理学』~自分で出来るこころの手当て~
増井武士著『迷う心の整理学』(講談社現代新書)を、皆さんにお勧めしていたら、「手 に入らない」と言われた。品切れだった。それが、別の出版社から、増補版として出ていたのが、『こころの整理学』~自分で出来るこころの手当て~(星和書店)。前半の理論編のところは、前のものとだいたい同じように思えたが(貸し出し中で照査したわけではないが)、後半のワークや事例が増えて、わかりやすくなっていた。特に、ワークの実例に関しては、まどろっこしいほど何度も注意点が繰り返しまとめ書かれている。この「何度も」箇条書きにされているところにも、今日の日本の心理的雰囲気への配慮を感じた。彼の論文や専門書は、かなり難解な代物。でも、この本はとても読み易く、実践しやすい。
亡くなった河合隼雄先生の評文が出ている。一度、父が、このラインを通じて、河合氏に『仏敵』を渡そうとしたが、残念ながら実現することはなくなった。これは余談。武士さんは、本家のジェンドリンに対してもハッキリ批判する点は批判されるが、河合先生をして、
「なんでも欧米の真似ばかりしたがる日本の学者の中で、自分のアイデアを生かして新しい方法を見いだしたのは大したものと思う。そして、この増井の方法は簡単そうに見えて『人間理解』の本質に深くかかわっているものだと思う」
と述べている。
簡単な理論を要約してみると、
人は心の問題や悩みが起こった時に、「なぜ、なぜ」と考えていく。そのために、1)心の問題には原因があり、それを発見すると問題解決に役立つという、因果関係モデルに頼る。それが一見、自然科学的な整合性のある理論だと思うからである。しかし、このことが、実は自分の性格を責め、自分の過去を責め、時に、他人のせいにして、結局、問題を硬直せていく有害なものになりかねないのだという。
または、2)心の問題に対して、どういう意味があるのか、意味をあれこれ計らう立場もある。しかし、その意味と実際にもがき苦しんでいる体験的事実の実感とは隔たりがあったり、治療者をして、目の前の悩むその人ではなく、理論や意味が優先される傾向にもある。
それに対して本書の立場は、「心の問題の問題たるゆえんは、その問題とそれに悩む人の関係のあり方によるものである」という、「関係モデル」ないし「体験モデル」というもの。つまり、心の問題は、いくら原因を探求しても、また意味を考えても、死ぬまず起こりつづける。まさに、「臨終の一念にいたるまで、とどまらず、きえず、絶えず」ですわ。でも、悩みは尽きなくても、本人との関係のあり方は、随分と変えることは出来る。つまり、心の問題との「間」が適当に取れて来ると、問題に振り回されなく、適当な距離が保てる。そうすると、自分自身の「自体感」が回復し、「問題」ではなく、「問題に苦しんでいる自分自身」をいとおしみ大切にしようという自己感覚が賦活(簡単にいうイキイキ感ね)する。
その背景には、心も身体もモノではなく、一定のエネルギーをもって常に行き場求める生命体であり、また自然の一部として尊重していく。(いまは、考えや観念や思想などの人工的な産物に、あまりにも振り回され、しっぺが返しを受けている状態なんですね)。そして、常に「いま、ここにいる、自分」を大切にしていく…というのが感じでしょうか。かなり下手な要約ですわ。
まあ、あれこれ理屈や頭をグルグルと働かせて、「なぜ?」と、非生産的な原因探しや犯人探しに終始し、常に自分や他人を責めたり、変わらない自分に焦ったり、疲労感に襲われるばかり。そうではなく、「触れないでそっと置いておく」ことで、心のままに、身体のままに、その問題が、問題のほうから動き、収まるべきところに自然と収まっていく。そのためのスペース作り、間作りのあれこれが、具体的に示されていると思います。
私たちの悩みや心の問題というのは多分に空想的なものなので、だから空想には空想で対処したほうがよいとい一文に、「そうか!」と思いましたね。これだけでも、随分、楽になる感じしませんか?
ちょっとエピソードを書きかけたけれど、長くなるので、項を改めることにした。
まあ、詳しくは、本書を読んでくださいな。
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コメント
古いほうがアマゾンの中古本で安かったので読んでみましたよ。
このようなワークというのは新鮮ですね。所で増井武士さんという人は華光の増井家の人なのですか?
投稿: ねこ丸 | 2008年4月 5日 (土) 05:54
ねこ丸さん、ようこそ。元気かな?
少し年は離れていますが、従兄弟ですね。詳しくは、伊藤康善著の『われらの求道時代』の18章、19章をお読みください。お父様は、 父の片腕として信仰活動を支えてくださっていましたが、早くお亡くなりになりました。
投稿: かりもん | 2008年4月 5日 (土) 10:14