『ONCE~ダブリンの街角で』
『ONCE~ダブリンの街角で~』 まるで音楽ドキュメントのような、とても自然で、リアリティーのある、温かいアイルランドの小作。
日本で公開されるアイルランドの映画は、反英闘争、IRA、移民(彼らが)をテーマにしてた社会情勢と絡まったものが多い。ちょっと時代が変わったのは、移民を輸出していたアイルランドも、東欧やアジアから移民を輸入される国になったことであろう。
ボロボロのギターを片手に、ダブリンの街頭に歌う、売れないストリート・ミュージャン。けっして若くない。本業は、年老いた父親の小さな電気修理(掃除機専門)の手伝いで、糊口を凌いでいる。彼の前に、チェコから来た出稼ぎ労働者の若い女性が立ち止まる。本国ではピアニストだったという。
実は、お互いパートナーのことで、悩み、傷を抱えている。彼女の家に遊びにいく。子供がおり、母がおり、同郷の朋友たちがいる。チェコに夫がいる。
ふたりが出会ったことで、芽生えるほのかな思い。と同時に、停滞していた何かが動きだしていく。女性にリードされながら、メジャーデビューという夢を実現させようとする男。
彼と出会ったことで、離ればなれの夫との生活を見直そうとする彼女。
そして、また偶然出会ったバンド仲間もいい奴ばかり。なにより、男の夢を静かに後押しする、年老いた父親がいい。
セリフはすくないけれど、アイルランドの風景と、ロマンティックで、切ない音楽が、そのまま映画のストーリーなのである。 最後のエンディングロールを見て、この二人に役名がないことに初めて気づいた。「あれ?」という感じ。「Guy」と「Girl」とだけ書かれていたけれど、そのことが、余計、ドラマを自然なものしているのかもしれない。それは、実際の二人を(売れないどころか、彼はアイルランドでは有名なバンドのリーダー、彼女はチェコのミージシャンで、ブラハで意気投合)、ある種、投影した役柄だからなのかもしれない。
少し切ないけれど、後味のいい映画です。
映画館を出たその足でCDショップで、サントラを買ったのはいうまでもない。アコーステックな、やさしい響きがかなりお気に入り。
「沈みそうな舟で家をめざそう
まだ時間はあるから
希望の声をあげろ、自分の選んだ道だ
きっと君はたどり着ける
ゆっくりと歌おう君のメロディーを
ぼくもいっしょに歌うから」 (Falling Slowlyより)
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