『再会の街で』
1月は、「あたり!」と思う映画が多かった。『いのちの食べかた』、『ひめゆり』の2本に、戦争の深い傷跡を女性の立場からナイブに描いた『サラエボの花』、音楽がとてもステキだった『ONCE~ダブンリの街角で~』などがよかったかなー。今月にはいっても、ハズレ(『シルク』)もあったけれど、おおむね、好調に滑りだしかたなー。
そのなかで、まずは、『再会の街で』(原題:Reign over me)。シリアスなテーマなのに、ウィットにも富み、かなりコミカルなシーンも多い、心温まる感動作。ヒットする要因が揃ってます。
9、11で、愛する家族(妻と二人の子供)を、突然、失ったエリート歯科医。仕事も捨て、記憶も、社会も捨てて、ひたすら、ゲームや音楽に逃避して、心を閉ざしている。このアデム・サンドラーがいい。『パンチドランク・ラブ』(おしゃれでステキ)や『ウェデング・シンガー』(温かい、ジーン)など、彼の作品は、けっこう好き。そして、この役どころも、アタリ!
彼と偶然かかわることになる、学生時代のルームメイトで、やりはエリート歯科医が、ドン・チードル(『ホテル・ルワンダ』や『クラッシュ』)。仕事も順調、家庭も平和。でも、女房に尻に引かれ、仕事も家庭も、どこか相手に会わせて、管理されたレールの上を、息苦しく歩かされているような小さな欲求不満を感じていながらも、相手の悲劇が癒えるプロセスで、彼も、本来の大切なものに気づいていくという役どころ。うーん、ぼくは彼にも感情移入やね。
しかも、全般、70年代、80年代の音楽が、キーワード。原題も、ザ・フーのロック・オペラの名曲。この音楽と、人間の力によって、感情を爆発させてぶつかったり、バカなことをやったり、お互い傷つけあいながらも、徐々に痛みを癒していくプロセスが描かれる。
これは、なにも9、11に限らず、愛する人を理不尽な事故や犯罪などで、突然、失った悲劇を体験した人々の共通の心象でしょうね。
ただ一点だけ、個人的に、ドキッとした場面あったね。やっと傷を癒すために、すごい勇気で精神科医に会うことを決意した彼。毎回、「話したくない」と、充分にそのことについて言葉でも、態度でも話している。しかも、治療を拒絶することなく、毎週のように医者の前に姿を現している。そのことだけでも、すごーいことやなーと思ってみていたら、「前回、話したくないと言ったことを聞きたい」なんて、かなり強引なアプローチをかける。もちろん、1度は引き下がるが、何回も重ねているうちに、「話さないと来ても意味がない」なんて迫っていく。ほんとかね? 彼は、いつも、いつもそのことが離れず、実は閉ざすことでなんとかバランスを保っているわけでしょう。傷口を暴かなければ治療は進まないのかなー。いつも休まることなく、傷口に触れまくっているから、外部との世界を遮断している。そのことをまず理解していかないで、この精神科医はなんと危ないアプローチをするんやーとね。
でも、映画では、ここが山場やね。やっぱり、触れたくないことでも、無理に話させ、厳しくても傷口をいじらんことには、傷は癒されないという神話に毒されていますからね。第一、そうじゃないと映画にはならん。だけど、触れないことで辛うじて取れていたバランスが崩れた結果、当然、起こる最悪の事態。けっきょく、最悪の事態は回避されて、逆に、そのことを通じて、ドラマは劇的に進んでいきます。でも、実際は、こうなることを見逃している精神科医はいかがなものかなー、な~んてね。素に戻ってしまいしました。これは、極めてほくの個人的な視点すぎるわね。
フィクション、ましてやバリウッドもの。とてもとても、うまい具合に収まります。この面子だものね。感動させないといけませんー。だから、普通にみれば、かなりの感動の名作。最後近くに、確執のあった義父、義母との出会いの場面なんか、けっこう、「ウーウー」ものでした。
皆さんは、ぼくのようなへそ曲がりな見方をしないだろうから、お勧め度はかなり高いよ。
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