『陸に上った軍艦』
『ヒロシマナガサキ』、『ひめゆり』と取り上げたので、昨年観た、太平洋戦争に関する2本の映画にも触れたくなった。
いずれもドキュメンタリーではないが、大切なメーセッージがこめられていた。これらに通底するものは、体験した者が後世へ、これだけは伝えたいという高い「志」ではなかろうか。
まずは、95歳の現役監督である新藤兼人が、自らの体験を語った(あくまで証言者であり、出演者でも、監督でもない)ところ、実写する形で描かれた『陸(おか)に上った軍艦』。いろいろな戦争映画があるが、異色作といってもいい。軍隊という非人間的な、理不尽極まりない組織を、一兵卒の視点から描かれている。まさに「弱兵戦記」と彼自身が記するように、30歳を過ぎて、シャバではそれなりの仕事の経験があり、家庭もある生活人たちが、やむなく徴兵されて、息子ほどの、ただただ軍隊の精神のみに生きる上官に、バカにされ、理不尽きまわりない体罰やリンチを受け続ける。それでも一切反抗することなく、従順に従い、お国のために命を落としていく。それでも、無抵抗な弱兵への暴力は留まることはない。そして、そこには、勇ましい戦闘シーンも、美談も、哲学も一切ない。ただただバカバカしく滑稽な作戦や訓練があるだけだ。もう哀れさを通り越して、噴飯ものである。
本土決戦に備え、池で鯉を1万匹養殖する壮大な計画がたてられる。そのために、そのエサになるハエを集めるのたが、1000匹集めたら、1日の外泊が許される。ビン詰めにハエを責任者の前で大まじめに、一匹一匹数えていく。彼は、めでたく外泊許可が下りるが、その前に鯉の稚魚1万匹は、喰われて全滅していた…。またすでに武器が尽きている。真面目な訓練が、木製の戦車をみんなで引っ張り、そこに体当たりすると訓練を死ぬほど繰り返していたある時、海軍本部から画期的な指令が届く。本土決戦に備えて、集団で刀で斬り込む計画である。その時、「クツを反対(前後)向けに掃け」と命令が下る。なぜか? しのび寄ったのにクツ跡が反対なので、敵は遠ざかったと勘違いするというのである。それが、大まじめで命令され、しのび足の弱兵たちがしごかれていく。もうバカバカしい。そんなめちゃくちゃで、リンチのみがある狂気の世界が、軍隊という組織だろう。正しい現状認識も、冷静な判断もなく、不合理で、暴力が支配している。日本国中をあげての共同幻想、狂気の精神性だけの残酷で、恐怖の世界が描かれている。
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