『夕凪の街 桜の国』
そしてもうひとつは、『夕凪の街 桜の国』。
ヒロシマの原爆がテーマだが、直接的な原爆のシーンはない。原爆投下から13年が経た広島(夕凪の街)と、平成19年の東京~広島(桜の国)を舞台に、そこに生きる2人の女性が主人公だ。というのも、戦争を知らない30代の広島の女性が描くマンガが原作である。だから、未曽有の大惨事とは、それで終わるのではなく、その後遺症は、平成の現代にまで、色濃くその影響を及ぼすことにも力を入れて描かれている。
静かだが、いい映画だった。(夕凪の街)の主演の麻生久美子の、品のある控えめな姿勢が、心を撃つ。ここにも、友人や家族を見殺しに、「生き残ってしまった」ことへの深い深い罪悪感がある。それは、『ひめゆり』にも、また『父と暮らせば』などの黒木和雄(彼自身のそうである)の描くテーマに通じている。彼女が言う。「一番、怖いのは死ねばいいと思われるような人間に、自分がほんとうになっていることに気がついてしまうこと」だと。そして、そんな私は絶対に幸せになってはいけないと、恋愛を拒絶し、深い傷が癒えぬまま背負い続けいく。その彼女が、後遺症で、死んでいく時につぶやく。「なあ、うれしい? 13年も経たけど、原爆を落とした人は、わたしを見て『やったー、また一人殺せた』て、思ってくれている?」と。戦争は、肉体の苦しみに加えて、人間の人間としての尊厳までも無惨に踏みにじり、決して、終戦と同時に終わるものではない。その苦悩を、直接的、もしくは間接的にその縁につながる人達が、どう受け止め、克服し、そして今日まで命を長らえてきてくれたのか。間違いなく、いま、ぼくたちが生きていることは、この多く苦悩や悲しみ、そして癒えることのない深い傷の上に、このいのちの営みが延々として続いているということであろう。
個人的には、広島の女性と結婚したことで、被爆した人達が身近になった。この映画のテーマに通じる点も現実にある。その意味でも、人ごとではない。
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