ベルイマン、アントニオーニの逝去と、アルトマンと。
小田 実氏の訃報に驚いていたら、スウェーデン映画界の巨匠、イングマール・ベルイマン氏の逝去が報道された。『野イチゴ』とか、『処女の泉』とかね。でも、ぼくがリアルタイムで、劇場で観たのは、今年封切られた『サラバンド』のみ。89歳ですか。最後まで現役。しかも、「やりつくした」と引退していた映画を、20年ぶりに最後作品は、公言どおり遺作となりました。
頑固な祖父と、何十年ぶりに再会する元妻、勘当同然に父に嫌われる前妻の息子と、皆から愛されている才能ある音楽家の娘、家族4名のお話。それぞれが人を替え、二人ずつ組み合わせで、幕間のある舞台のように進行します。とても強烈な家族の葛藤、確執が、相手を言葉や態度で、拒否し、罵倒し、または受容し、愛を語る、強烈なメッセージとなって伝わってきます。ここまで露骨に感情を吐露するのは、ちょっと不快感(結局、カタルシスでもなんてもく、そのネガティブな感情にドンドン巻き込まれて、不信感や不安感が募って、ますます混乱しかねない)もあるけれど、一方で、その剥き出しの憎しみが、深い愛情と違順して、サラバンド(バッハ無伴奏チェロ組曲第5番の第4曲)として、伝授されるくだりは見事。風景といい、なかなか重厚な遺作とでした。
ぼくには作風が違うようにみえるけれど、彼の影響を公言して憚らなかったロバート・アルトマンといい、80歳を超えても、現役で、最後の最後まで、意欲的に、クリエーティブな仕事をしている現代進行形の巨匠の訃報が続きます。アルトマンも、今年、封切られた『今宵、フィッツジェラルド劇場で』が、遺作。こちらは、冒頭から、映画らしい雰囲気をもった、心温まる音楽映画。メリル・ストリープ、リリー・トムソン、ケヴィン・クライン、トミー・リー・ジョーンズなど、脇役にも豪華俳優陣ずらり。テレビ全盛期に、30年余り生き延びたラジオの音楽バラエティショーが、オーナーが変わって、今夜が最後の公開生中継。その舞台裏を描いている。ユーモラスに、時に残酷に、古きよきアメリカを彷彿させながら、悲喜こもごもと描きだされます。M・ストリープのカントリー風の歌声や、コミックソング風の方、そして大人の掛け合いも面白く、楽しく、すこし切なさも残る1本。
さらに、イタリア映画界の重鎮、ミケランジャロ・アントニオーニ氏の逝去も報じられた。奇しくもイングマール・ベルイマン監督と同じ、7月30日。こちらは、94歳。しかし、90歳を過ぎてからも(最後は奥さんが仕上げたとか)、ウォン・カーウァイ、スティーブン・ソダーバーグという映画監督に呼びかけて、3人で愛とエロスについてのオムニバス映画が最後となった。『愛の神、エロス』 。
世間の評価も同じでしたが、第1作の「The Hand」が秀逸。60年代の香港を舞台にした、若き仕立屋見習いの、高級娼婦への(仮縫いという手だけを通じての)プラトニックな恋。コン・リーの華麗さ、妖艶さと、悲哀が滲み出たなかなかゾックとする作品だった。おかげて、変化球で攻めた、モノクロの夢と無意識を扱った、第2話のスティーブン・ソダーバーグの「ペンローズの悩み」の印象が薄くなった。最後が、ミケランジェロ・アントニオーニ。真夏のトスカーナを舞台に、結婚生活に行き詰った夫婦。夫が、塔で暮らす不思議な女性、リンダと関係を持つ、「危険な道筋」。まぶしい太陽のもと、美しい肢体を惜しげもなく見せてくれました。それぞれが、「純愛」、「悪戯」、「誘惑」といった独自の視点から、愛とエロスを描き出したコラボレート作品。この3作品をつなぐのが、ロレンツォ・マットッティの絵画と、カエターノ・ヴェローゾの例によって、繊細な音楽(このサトルさがぼくは好きだなー)。
80歳を過ぎても、創造的な作品を作り続け、最後まで燃焼しつづけた、3名の巨匠を偲び、それぞれの遺作作品の紹介となりました。
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