『八宗綱要』凝念大徳
最近、『無門関』(岩波文庫)と、『八宗綱要』(講談社学術文庫)を読み出した。
ぼくは、一応、真宗学を専攻していたが、いまの大学の制度では、それ以外の仏教の宗派を勉強する機会はほとんどない。たぶん、仏教学概論程度のものが、卒業単位で必要なぐらいだ。旧制の大学では、真宗学を示す宗乗と、仏教学を示す余乗という体系があったが、細分化し、専門化しすぎで、真宗学を専攻するものは、他の宗派のことを何もしらないまま卒業することになっている。だから、「真宗以外の宗派の教義について、どれだけ知っているか」と、問われたら、唯識(法相宗)の勉強を多少している程度で、他に教義に関しては、みごとに素人同然だ。
たまたま、別の本(河口慧海の『チベット旅行記)』)を探して、同じ講談社学術文庫の『八宗綱要』を見つけた。そこで、父の書棚から、仏教学会編の『八宗綱要講義』を選んで、少し読むことにした。これは大正年間に書かれ、昭和2年に発行された古本の再版もの。いまも、法蔵館から新刊も出ているようだが、仏書専門店で、一万円前後で取引されているのだろう。
さて、鎌倉時代の華厳僧である凝念大徳が顕した本書は、仏教諸派の教理を本格的に知ろうとする人のための適切な案内書として、古来より名高い。それが、凝念29歳の時の書物であるのだから、八宗兼学の早熟な天才だったようだ。
ところで、仏教の八宗とは何か。いまの感覚では、浄土宗、浄土真宗、禅宗、日蓮宗と、天台、真言などになるだろう。しかし、ここでは、平安時代までに中国から日本に伝わった仏教の八つの宗派のことである。つまり、倶舎宗、成実宗、律宗、法相宗、三論宗、華厳宗の"南都六宗"に、平安時代の天台宗と、真言宗を加えたもの。いわゆる、「南都北嶺のゆゆしき学生(がくしょう)たち」の学問である。この八宗の祖が、龍樹菩薩なのである。つまり、今日隆盛の浄土宗も、浄土真宗も、また臨済や曹洞の禅宗も、日蓮宗も含まれていないのだ。
それは、本書が、鎌倉新仏教の興隆の最中に顕されたものなので、それらは既成仏教から敵対視される新興勢力にすぎなかった。それでも、無視できないほどの力も生まれつつあり(彼自身も、22歳のころ長西から、善導大師の『観経四帖疎』を学んでいる)、おまけ程度に、禅宗と浄土教の中国での概観が、巻末に触れられている。
ただ、逆にいうと、法然上人や親鸞聖人の当時の、仏教学の概要、八宗の様子が本書を通して知ることができる。鎌倉新仏教が、華々しく日本的な展開をする最中、既成仏教の中からも、さまざまな逸材が輩出していることは、あまり知られていない。そう考えると、鎌倉仏教、日本仏教の重層的な深さ、ダイナミックさも窺えるのである。
まあ、せいぜい得意の三日坊主にならんように、毎日坊主をしていきます。
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