『サン・ジャックへの道』
当たり前の話だか、期待して観る映画が、期待通り面白い場合もある。あまり期待していなかったのに、よかった場合もある。または、期待しながら、それを裏切られることもある。
その点では、『サン・ジャックへの道』は、期待して、期待以上に面白かったお勧めの1本だ。
良質のコメディーであり、万国共通の温かい人情話であり、そして、中年男女の気づきの物語であり、美しすぎる大自然を旅する、典型的なロードムーヴィーだった。
ぼくは、こんなロード・ムーヴィーが好きだ。風景が変わると、心境も変わる。気づきがあり、出会いがあり、別れがあり、大切なことを学び、自分を知っていくんだー。
サン・ジャック。日本人にはなじみのない地名だ。
スペイン語では、聖地サンティアゴ。フランス語では、サン・ジャックになる。フランスからビレネーを超えて、スペインのサン・ジャックまでの、なんと1500kmもの巡礼路(東京~大阪の3倍だね)。それを歩くことが、母親の遺産相続の条件と知らされた不仲の中年三兄姉弟。それぞれが事情を抱えている。事業の成功と引き換えに、アルコール依存の妻との仲が最悪の長男は、携帯、車、医療(薬)と、文明生活にドップリつかり、からだを動かし歩くことなどは大嫌いだ。無神論者の女教師の妹は、支配的で頑固で、教師として、また(夫が失業中)の家庭でも問題を抱えている。さらに、家庭生活に失敗し、無一文で、アル中なのに、なぜか人に愛される次男。
それぞれの思惑に、欲の炎も燃えて、遥かな2ケ月もの長旅の道ズレとなる。共に旅をする仲間は、それぞれ訳ありの女性に、母親のためにイスラムのメッカへ行くと思い込んでいるアラブ系の少年など、個性的な面々。最初から、感情が激しくぶつかりあい、不平不満と、仲違いの連続。そんな仲間に悩まされつづけるガイド役。でも、それぞれの事情を背負ながらも、ただただ歩くというだけの行為のなかで、生身の人間同士のふれあい、豊かな心の動きに笑ったり、泣いたりしていると、その背景になっている、あまりにも美しい世界遺産の大自然の巡礼路にも、思わず目がいって、また感動。美しいー。ラスト、聖地で彼らが出会ったものは--。おかしくも、やがてジーンとします。
車も便利だし、エレベーターも楽。だけれど、シンプルに、この両足を使って歩くことって、素敵ですよね。そのスピードでしか見えないものもたくさんあるはず。ぼくたちは、利便性のみを追いかけて、いろいろな余計なものを身につけること成功したけれど、同時に、失ったものに気づけないのでは、あまりにも悲しいものね。
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